Sweet xxx Kiss | ナノ




Sweet xxx Kiss


クラサメとの交際は、非常に淡白なものだ。エミナは、暫しそう思うことの方が多かった。口数の少ない彼を好きになったのだから、仕方がないと思うことにして自分を慰めてはいたのだが二人の間に心の距離がある様で寂しくもあった。
忙しい合間に、自分との時間を作るクラサメに感謝はしていた。
しかし、ただ会ってお話をして、はいそれでお仕舞いという一連の流れからそろそろ卒業して大人の関係へと歩みを進めたい気持ちもあった。
いざ、クラサメを前にするとエミナは胸がいっぱいになってそれだけで満足していたのだが、クラサメが帰ってしまってからそう思うことが多くなった。
所謂スキンシップ不足。言ってしまえばクラサメ不足。
もっといちゃいちゃいしたいなんて、如何にも欲求不満気味ですと言っているようで言えなかった。



今日のデートはクラサメの自宅。秘密主義の彼の自宅を知る者はいない。自分だけがこの場所を知っていると、クラサメの匂いのする部屋に入ると優越感に浸った。
たまには、恋人同士の気分に浸りたくて、エミナは自宅でDVDを観ようと思い切って提案をしてみた。
数か月前に流行った、こてこての恋愛アクション映画。クラサメの好みではないとどこかで分かっていたが雰囲気作りの為に借りてきた。

始まる前に流れる他映画の予告を眺めつつキッチンでコーヒーの準備をして、始まる数分前にはクラサメがゆったりと腰をかけるソファーへと急いだ。
どさくさに紛れて、甘える様に逞しい腕に寄りかかって笑いかけると、クラサメは受け入れる様に僅かに口端を緩めた。
口元を覆う金属製のマスクを外したクラサメの横顔を見つめて、プライベートの時間を過ごしているのだと実感する。
甘い気分に浸っていると映画は既に始まっていた。

物語の冒頭での恋人同士であろう二人の濃厚なキス。心拍数を速めて、気恥ずかしさも混じる中でエミナは魅入っていた。
そして、心の中で呟くつもりだったがついうっかりと吐露してしまった。
「気持ちよさそうなキス。クラサメくんとあんなキスしたいな。気持ちよさそう。」
愛を囁き合う恋人同士もそっちのけで、エミナは自分の言葉に耳を疑った。
「……エミナ、ああいうのがしたいのか?」
笑い飛ばしてくれればいいものを、寄りかかるエミナにクラサメは問いかける。その表情は至って冷静尚且つ真顔。
羞恥により、顔から火が出そうだ。
欲求不満の、いつもこんな事ばかり考えている淫らな女だ。エミナはそう思われている気がしてそっと視線を逸らした。
「やだなぁ、クラサメくん、こういうのは聞き流しちゃわないと!」
声だけ笑って、エミナの表情は引き攣っていた。腕に寄りかかっていた身体を起こして端の方で小さくなっていた。
いつでもどんな時でも冷静な判断が出来るクラサメなのだから、どう思っていても知らぬふりをしてくれるだろう、して欲しいと思いつつ、最早、内容も台詞も頭に入らずに画面だけを眺めた。

「エミナ……。」
名前を呼ばれたので、羞恥も感じたが顔だけ向けた。鼻筋の通った端正な顔立ちに見惚れていると眼前に影が出来た。何も考えずに見上げていると重なったのは唇。
「くらさめ…く…ッ、んぅ…!」
唇に伝わる待ち望んでいた熱が身体を駆け巡る。ぴくっと身を震わせて目を瞑ると、唇を押し広げて滑り込む舌を感じた。
初めて感じるクラサメの舌が、エミナの咥内を一通り巡って歯列をなぞる。きゅうっと舌を絡め取られるとエミナは、クラサメの手に自分のそれを重ねた。
「っ、は……ぁ。」
息継ぎの為に唇が離れても、濡れた唇が重なって舌が優しく挿入される。

矢張り、思った通り。気持ちが良い。

目を瞑ってクラサメのキスを存分に感じていた。自分だけがこんなにも気持ちいいのではないとか心配になったエミナは、そっと目を開ける。
クラサメも同じように、気持ちが良さそうに目を細めてエミナの舌と唇と合間に漏れる吐息を感じていた。

「っ…、どうだ?気持ちが良かったか?」
舌の次に絡み付くのは、クラサメの欲の帯びた視線。
キスだけ、全身が悦ぶ。とろんとした表情で頷いた。

「気持ちよかったよ。クラサメくん。もっと、しよ?」
指の背で垂れる唾液を拭って、甘い声音で誘う。
冷静を脱ぎ捨てたクラサメとのキスに浸っていた。

物語の核心に迫る良い所。
ソファーで熱いキスを交わす二人には、物語の進み具合なんてもうどうだってよかった。

映画の中の恋人同士も、負けじと二回目の濃い口づけをしていた。



2011/12/17