バニラ(候補生時代のクラサメとエミナ) | ナノ

バニラ(候補生時代のクラサメとエミナ)


ガンガン読んで、出来ました。突発。ちょっと、ガンガンネタバレ。



夕暮れのテラスは、思いの外、人気が無く考え事をしたいときには最適な場所だった。
未だ見ぬ先の景色に目を細めて、手にあるアイスクリームを一瞥。
陽が落ちても尚、熱気はとどまることを知らないのか先程まで綺麗な形を成していたアイスも、早々に形を崩して液状となってコーンへと流れ落ちていた。
溶けた箇所からゆっくりと舌で舐めあげる。
濃いバニラの味が舌先に広がって、まずまずの味わい。
その甘味をもっとと求める様に、無意識に舌は動く。
全身に感じるじっとりとした熱も、内側から冷めていくような気がして、満足げに口端を緩めた。
夢中になって舐めていると、クスリと笑い声が聞こえた。
カヅサかと思い、訝しげに眉を寄せて向けた視線の先には、候補生一の美少女と謳われるエミナ。
何かを食しているときの無意識の顔を見られている事が気恥ずかしくなったクラサメは、口端をヒクリと吊り上げた。


「クラサメ君って、見かけによらず甘いものが好きなんだネ」
一瞬目を離した隙に、エミナはクラサメとの距離を腕が当たるほどに詰めていた。
「悩んだときは、甘いもの、がいいって言ってたんだよ」
近すぎる距離に、クラサメはぎこちなく視線を動かして舌の動きを止めた。

「あ、カノジョが言ったのかなぁ?」
「友達だって。エミナだって、甘いもの好きだろ?」
女子は大体そういうものだと、ミワが言っていたことを思い出した。
「んーん、ワタシ、甘いのニガテ。でも、クラサメくんが美味しそうに食べてたから欲しくなっちゃった」
首を振れば長い髪がふわりと揺れる。その様を、眺めていると物欲しそうな視線を感じた。
食べかけのアイスクリームでもいいのならばと、差し出そうとするもあることが気にかかってその手を引っ込めた。

恋人同士でも無い男女が、間接キスなど不徳の至りではないのか。
真面目すぎるクラサメは、本気で悩んでいたのだ。
その間にも、アイスは溶けて液状となってクラサメの指に伝っていた。


「一口でいいから味見させて?」
クラサメの指を伝う白い液を眺めたエミナは、緩く腕を掴んで汁垂れる其処をゆっくりと舐めあげた。

「クラサメ君の指、甘いネ」
エミナの紅い舌が、指先から離れるとクラサメは名残惜しそうにその舌を見つめた。
何かに、期待していたから。その何かというものは、言葉に出来ないなにか。

「俺の指じゃなくて、こっち舐めていいのに」
「これくらいで丁度いいんだよ。あっ、クラサメ君、食べないと溶けちゃう」
エミナの吐息が唇に当たるほどに近づいてきたので、また何かに期待した。が、二度目の期待も裏切られた。
色のある時間を、何事もなかったかのように笑うエミナとは対照的に、クラサメの指先は、生暖かい感触を残したままに叶わない戯れを願っていた。
とろりと指先に感じる液に、慌てて指先を舐める。
クラサメの行動にまた一つ笑って、エミナは、ばいばいと手を振る。



遠くで聞こえていた足音が、駆け足で戻ってくる音が響く。
後ろで、耳元で、聞こえる笑い声に、気付いた時には背中には柔らかい感触が。

「甘いのも、たまには悪くないネ。また甘くて、白いの頂戴ネ?ふふっ、クラサメ君の恋人には秘密」
そういえば、カヅサとデキていると勘違いしたままだった事に不服そうに眉を寄せて振り返ったころには遅かった。

暖かい風の中に、バニラの匂いだけが残る。

背中と、指先に、あの子の柔らかくて甘い感触だけが残った。

2012/07/26



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