貴女の好きな顔(マスルール×ヤムライハ) | ナノ

貴女の好きな顔(マスルール×ヤムライハ)


「飲み過ぎっすよ」
酔いつぶれたヤムライハを自室まで運ぶのは、マスルールの役目となっていた。
頬を染めて、気持ちよさそうに笑うヤムライハを柔らかいベッドに寝せて耳元で囁く。

「やだぁ。もっと飲むぅー」
物足りないヤムライハは、ベッドの上でゴロゴロと転がって子供の様に駄々をこねていた。
「もう酒はオシマイですよ」
ぽんぽんっと頭を撫でるマスルールを、ヤムライハは不服そうに見つめる。ゆっくりと起き上がったかと思えばマスルールの逞しい腕に絡み付いて甘えた。

「いじわるはんたーい」
むにむにと柔らかい乳房を押し当てられて、マスルールも平常心を保てるほど出来た人間ではない。
ざわつく下肢に気づかない振りをして、グラスの冷たい水をヤムライハの頬に押し当てた。熱い頬に染み込む冷たさにヤムライハの肩が揺れる。
抱きついていた腕から離れると、ベッドへ身を投げてくったりとした表情でマスルールを一瞥して目を閉じた。

マスルールは、目を瞑る魔導士を見るとため息をついて背を向けた。役目は終わったと理解してこの場から去ろうとした瞬間だった。
「マスルールくん、いる?まだ行っちゃダメよ」
視界と思考の定まらない顔をして、ヤムライハは男の腕を掴む。
「はいはい、いますよ」
従順な返答には満足げに口端を緩めて、楽しげに笑う。
のそのそと起き上がると膝上に頭を乗せて、見上げると甘え口調でマスルールにおねだりを一つ。

「お水、飲ませてー」
ヤムライハ自身、酔っているせいか何を言っているのか分からなかった。
年下の男の子に甘えているという自覚だけが残っていた。
「……、口、開けてください」
マスルールの親指が、ヤムライハの唇を撫ぜて、唇を開ける様に促す。ゆっくりと頷いて、ヤムライハは唇を薄く開いた。

訪れるのは、無機質な感触と冷たい水だと思っていた。

「んうッ!」
押し当てられたのは、意外にも柔らかい唇。水と共に流れ込んでくるのは肉厚の舌。
抵抗するまもなく、マスルールの唇と舌の侵入を許していた。
「ふっ、ん、も、いいっ。飲めなっ……」
マスルールの舌は、ちゅぷりと音を立てて意思を持つ生き物の様にヤムライハの咥内を探る。
どこで覚えたのか、その絶妙な舌の動きに翻弄されて、喉奥に流れ込む水分をうまく飲み込めないとヤムライハは顔をしかめてその舌を追い返す。
「ッ、まだ零れてますよ」
唇が離れて楽になった。だが、また押し込んでくる。
押し返そうとすると、入り込む舌にヤムライハは根負けをしてしまった。されるがままにその舌を受け入れて、僅かな快楽に浸る。
酒のせいか、マスルールの舌の動きのせいか分からないくらいに、身体が朱を纏っていた。
「ッ、はぁ……」
漸く解放されたかと思えば、口端を舐められてまた舌を挿入される。
口辱にいつしかヤムライハからも舌を差し出して、快楽を奪おうと絡めていた。

「っ、おかわりありますよ」
呼吸できないほどの激しいキスだというのに、マスルールは平気な顔をして言う。
女の細い指が引き寄せられるかのように、男の唇に触れて求める。
「っ、足りないから、もっとちょうだい」
恍惚の表情を向けるヤムライハに、マスルールは口端を吊り上げて、悦んだ。



「先輩が知ったら、どうするんでしょうね?」
ヤムライハの指先が力なくベッドに落ちて、マスルールから視線を逸らす。


快楽にも変わらなかったマスルールの表情が、歪み、口端は酷く楽しげに釣り合がる。

ヤムライハの許しを請うような切なげな表情に、マスルールは異常なほどに興奮していた。

欲しいのは、笑顔ではなくて、今しがた浮かべるこの表情だった。


2012/07/11

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