くらり(シャルルカン×ヤムライハ) 愛し合った後は、浴室で互いの汗を流しあうことが日課となっていた。 幾ら隅から隅まで裸を見られていると頭では理解していても、ヤムライハは毎回気恥ずかしさに頬を染めていた。 寝たふりをしていても、シャルルカンに湯浴みを求められてしまえば頷いてしまう。 快楽しか与えてくれない清めの後に、大理石でできた浴槽へと足を踏み入れた。 向かい合うシャルルカンは、ヤムライハに視線を向けてこちらへと誘う様に手招きをする。 嫌よとヤムライハが首を横に振っても無駄な事だった。じりじりと近づいてくる狼から逃げようと試みて背中を向けたことが間違いだった。 後ろから強く抱きしめられて、気付けば背中をシャルルカンの広い胸板に預けていた。 「……、そんなに抱きしめてくれなくても逃げないわよ」 シャルルカンの顎が肩口に乗せられて、熱い頬が重なり合うとヤムライハは反射的に目を瞑った。 嬉しいはずなのに、向ける言葉にはいつも棘を添えてしまう。 可愛くないと分かっているが、長年染みついた癖はそう簡単には抜けてくれなかった。 「ホンットかわいくねえ女」 浴槽で滲むヤムライハの声に口角を上げて、水滴の滲む頬をぺろりと舐めあげた。 売り言葉に買い言葉といったように、シャルルカンもいつものように返すがその声音は戯れを楽しんでいた。 「何よ。私が嫌なら、黙ってあんたについていくような女を選べばいいじゃない」 言い過ぎたと分かっていても、滑る唇を止めることが出来なかった。 こうやって甘えられるのが嬉しくて、面映ゆくて。素直に大好きだと言えれば苦労もないのだが、心のままに甘えることのできないヤムライハは、軽口を叩くことで遠まわしに甘えていた。 後悔に眉を寄せて、水面にぼんやりと浮かぶシャルルカンの表情を覗き込んだ。 返ってくる言葉にまた強気で反応してしまいそうだった。 「ほんっとなー、俺に好きだっていってくれて、可愛く笑いかけてくれるような女のが癒されるかもなぁ」 揶揄される訳でもなく淡々と紡がれると、自業自得なのだが寂しくて仕方が無かった。 「だから、そっちにいけばいいじゃない!黙ってたら女が寄ってくるでしょ」 言いたくないのに、また可愛げの無い言葉を押し付けてしまった。 激しい喧嘩になる前に、ヤムライハはこの逞しい腕の中から逃れようと両足をばたつかせた。 「……かわいくねえ上に、腹立つぜ。他の女の事行くなくらい言えねえのかよ」 呆れかえるシャルルカンの声が胸に突き刺さると、ヤムライハはもがき続けた。 その度に、抱きしめる力が強くなって抵抗の無意味さを知る。 「私だって、私に腹立つわよ。言っとくけど、あんたの好みの女にはなれないから」 動くのを止めて顔だけをシャルルカンに向け、不貞腐れたような視線と言葉を添えた。 「誰がなれっつったんだよ。素直じゃねえし、魔法の事ばっかだし、未だに年上髭面にときめいてムカつくけど、俺はヤムライハがいいんだよ。わりーか」 ずしっと圧し掛かる言葉に、ヤムライハはしょんぼりとした表情でシャルルカンの声を聴いていた。 突っぱねる声音とは異なって、意表をついたような言葉が流れる。双方気恥ずかしいのか、逆上せているのか分からないくらい頬が熱く、朱くなっていた。 こういう時、どんな表情をしたらいいのだろうか、どういう返しをしたらいいのだろうか、悦びをどうやって伝えれば良いのだろうか、恋愛経験の少ないヤムライハは混乱した。 悪態をついてしまいそうになると、そうじゃないと首を振って否定した。 「悪いなんていってないじゃない。……ありがと。ばか、でも、やっぱりありがと」 胸の下にある腕に触れて、震える声で呟いた。 「うまく言えないけど、私もあんたがいいのよ。ほ、他の女の所にいったら蒸発させるわよ!」 喜びと気恥ずかしさが混じった複雑な表情で振り返ると、シャルルカンの腕に手を回して顔を見せない様にぎゅうっと抱きついた。 情熱的な言葉に、蒸発してしまいそうだった。 「幸せすぎて、溶けちまいそうだ」 くらりとさせられるヤムライハの表情にぽつりと呟くシャルルカンが、興奮と熱い湯によって倒れるまで数秒と掛からなかった。 2012/06/28 |