だって男の子だもん(→←キング) | ナノ




だって男の子だもん(→←キング)


暖かな日差しの降り注ぐ昼下がり。お腹も満たされたサイスは屋上で、雲一つない青空を眺めて昼休みを一人で過ごしていた。
この屋上は、人が訪れる事が少ない。サイスのお気に入りの場所だった。
うつらうつらと瞼が閉じては、うっすらと開く。お昼寝しかけたその時だった。
どたどたと大きな足音と、静かな足音が二つ。誰か来たのかと身構えると、聞き覚えのある声が屋上に響く。

「だりー、次の授業も受けたくねぇよな、コラァ!」
「ああ、ここで昼寝もいいな」
聞こえてきたのはナインのけたたましい声と、落ち着いた男の声。
無意識にサイスの頬は緩んで、警戒を解く。姿が見えないので、どうやら裏側にいるらしいことが分かった。

「でっけぇ声。寝らんねぇぞ」
ナインの大げさすぎる声が耳に入り込むと渋い顔をして、ぽつりと呟く。
完全に目を覚ましたサイスは大きな欠伸をして、両腕を頭の上で組んで背を伸ばした。



「……こっから、エミナせんせぇは見えねぇか。なー、エミナせんせぇのおっぱいすげぇよな」
聞こえてくるナインの声に、怪訝そうに眉を寄せて、これだから男は下半身でしかものを考えないとサイスは呆れかえったようにため息をついた。
キングは、そんな不埒な話に乗らないだろうと思っていたが不意打ちでの返答には耳を疑った。

「凄いな」
「だよなー。でっけぇ。歩くだけで揺れるんだぜ。すごくねぇ?アレだな、挟んだら気持ちいいんだろうな」
「ああ、そうだろうな」
にやにやするナインとは対照的に、キングは淡々と答える。
「エミナせんせぇ、エロくて、たまんねぇよな」
「仕草が、色っぽい。ああいうオンナもいいものだ」




またもや、サイスは耳を疑った。と、同時にショックだった。
常に冷静で、キングの口から卑猥な言葉なんて今の今まで聞いたことが無かった。しかも、エミナがタイプであるかのような口ぶり。
ナインと共に、こんな下世話な話をするだなんて。
巨乳が好きだなんて。サイスは、制服の上から自分の胸を掴んだ。
仕草に、色気は無い。というよりも、色気だとかそんなもの気にしたこともなかった。
しゅんとなるサイスとは対照的に、裏側では思春期男子達が卑猥なお話に花を咲かせている。
男だから仕方ないと頭のどこかで分かっていたが、矢張り、ショックは大きい。

「おっぱいでけぇといいよな。ヤリてー。やっぱ、キングもでかぱい好きか?」
「まあ、俺も男だからな。一度くらいは……なんて、な」
ナインの問いかけに、曖昧に笑う。キングには珍しく冗談で返した。

「キングのやつ……舐めてんのか?」
顔なんて見えない。冗談だとも分からないサイスの堪忍袋の緒がぶち切れた。
目は座っていて、今にも殴りかかりそうな勢いで二人の前に出ていく。


「おおっ、いたのかよ、サイス!」
突如現れた鬼気迫るサイスに、ナインは身構えた。この表情の時のサイスは、他でもない自分へ突っかかってくる。そんな自信が有った。
けれども、そんなあまり嬉しくない期待は裏切られて、ナインを完全に無視したサイスは、キングに詰め寄る。

「覚えてろよ、もっと胸がおっきくなってあんたのことめろめろにしてやる!」
胸倉掴まれて、怒られているのか、愛の告白を受けているのか分からずにキングは混乱した。
言葉をかけようと思うも、言い切ったサイスは物凄い勢いで屋上を出て行った。


打倒、エミナ・ハナハル。
この日から、サイスはバストアップに勤しんだ。
毎日、牛乳を一リットル飲んで、筋トレに励む。
そして、お腹を壊す。が、キングの為に頑張った。

「……、おっぱいは好きな人に揉んでもらったらすぐに大きくなるんだよ?」
見兼ねたエミナは、日夜、バストアップに励むサイスへのアドバイスをした。

「も、揉むだとか何、エロいこと言ってんだよ。き、キングにそんな事、言えないよ!」
「ふふっ、恋するサイスちゃん、かわいいー」
よしよしと頭を撫でるエミナに、サイスは大きく揺れる胸を見つめて拗ねた。
それがまた、可愛くてエミナも無意識にぎゅうっと抱きしめてしまう。年下の女の子は、妹のようでエミナにとっては可愛くて可愛くて仕方が無かった。
特にサイスは、ナインによく似ている。血の気の多い性格が可愛らしく感じていた。

「うがー!あんたの胸で窒息するからやめろー」
胸の谷間に押し付けられて、苦しそうにもがく。

そんな二人を見て勘違いしている男が二人。
「……オイ、コラ、え、エミナせんせぇとサイスってそんな仲なのかよ」
いちゃつく二人を見て、顔を真っ青にするナイン。
「……そうかもしれん。女も、胸が好きなのか」
きゃっきゃしている訳では無いのだが、キングもナインにも、ただならぬような仲に見えた。
サイスが見せてくれたことのない顔をエミナに見せていると知れば力なく呟いた。

キングが巨乳大好きだという事を勘違いしているサイス、サイスがエミナの胸に夢中だと思っているキング。
誤解が解けるまで、暫くかかりそう。

ナインもまた、違う意味で興奮して、激しく落ち込んでいた。


2012/06/24