せくしーふぇろもん(ナイン×エミナ) | ナノ




せくしーふぇろもん(ナイン×エミナ)


朝方は晴天に恵まれていた為、エミナはうっかりしていた。この天気が、午後まで続くだろうと思って雨傘を持ってくるのを忘れたことを、激しく振り続ける雨を見て後悔した。
魔導院の大きな扉の前で、雲で覆われる空を見上げて片眉を閉じた。
「うーん、傘は全部貸出し中。濡れて帰るしかないかなぁ」
地に落ちる雨粒が、跳ね返って雨の激しさを知る。
肌に触れれば痛いだろうと思えば、一歩が踏み出せないでいた。さて、誰に頼ろうかと一番に出てきた人物にふと目を細める。
常日頃、己を気にかけてくれるぶっきらぼうな可愛い男の子。
振り返れば声が聞こえてきそうだなんて、都合の良いことを思えば肩を揺らした。
此処で時間を潰していても意味がない。雨に打たれる覚悟が出来た刹那――

「え、エミナせんせぇ。……傘ねぇなら送ってやるぞ、コラァ!」
ナインの声に、その決意は儚くも崩れる。踏み出そうとした一歩を元へ戻すと、不器用な声音のする方へと視線を向けた。
隣に並ぶ禁止に、丁寧に問いかける。
「わあ、送ってくれるの?お言葉に甘えていいかなぁ」
窺う様にナインの顔を覗き込むエミナを一瞥すると、ナインは短く返した。
「遠慮すんな」
年下で可愛らしいはずのナインの声が頼もしく、心強かった。
大きな傘を開いて、エミナの頭上にそれを掲げる。ナイロン生地の傘に大粒の雨が強く降り注いで、それが破れてしまいそうな程だった。
傘の中に男女が二人。所謂、相合傘だというものだったがそれを言葉にしてしまえば二人の空気が変わってしまう事はエミナは分かっていた。
冗談で笑い飛ばせばいいと頭では理解しているものの、肩が触れ合うくらいの距離を妙に意識してしまうことは明らか。
喉元で堪えて、先程から無言のナインに視線を向けた。
「ナインくん……、肩びしょびしょ。キミ、濡れちゃってる」
傘の中でも、微妙に感じる距離と強まる雨音。見上げた彼は、顔はしかめっ面のままでご機嫌ナナメに見える。
覗き込んだついでに見えた、傘からはみ出た大きな肩がびっしょりと濡れている。
「アァ?あー、大丈夫だ。いちいち気にすんじゃねぇよ」
「風邪引いちゃうよ。もっと、くつっついた方がいいかな」
「!いい、いいから、これ以上くっつくんじゃねぇ!」
ナインの腕にエミナの腕が当たる。それだけで、ナインの身体が大きく震えた。
冷静を装っている割には、内心は尋常ではない程に興奮していた。
息が詰まる程のもどかしい距離感。心底惚れている相手を目の前にして、若い心は平気な振りをすることでいっぱいだった。

激しい口調のナインに物怖じもせずに、エミナは距離を詰めた。
「だーめ。キミが濡れたら意味ないんだから」
心なしか柔らかい胸も当たっているような気がする。密着する傘の中で、エミナからの甘い良い匂いと柔らかい感触で傘を持つナインの手の感覚は麻痺していた。
ドッドッと心音が細かく、激しく高鳴る。
途中、エミナからの問いかけも、上手に答えることが出来なくて気の抜けたような生返事を幾つも返していた。
夢心地のような時間が終わるのは早い。
エミナが濡れない様に配慮して、玄関口のギリギリの所まで送った。

「家まで送ってくれてありがとう。濡れちゃったね」
「大丈夫だって。エミナせんせぇが濡れなくてよかった」
「ふふっ、優しい良い子だね。ホットミルク、飲んでいかない?」
ぐいぐいと誘い込まれて、気付けばエミナの家へと上がりこんでいた。

「ナインくん、脱いで?」
ぎこちない足取りで、招かれたのはリビングのソファー。腰を掛けて、エミナと同じ匂いのする室内に視線を巡らせた。
「ぬ、脱げって。は、裸になれっつーことか!」
突然の言葉に、ナインの肩が跳ねる。目を丸めて、再度問いかけた。
エミナが笑って、首を横に振ると柔らかいタオルを頭に被せた。
「違うよ。濡れたところ乾かすだけだよ」
隣に座るエミナは、愉しげに笑ってナインの袖口を掴んで濡れた制服の上着を脱ぐように急かした。
言われるがままに制服を脱いで、黒のインナーシャツ姿になる。受け取った制服を乾燥機に入れると、エミナはまたナインの隣に座った。
「……髪も少し濡れてるネ。拭いてあげる」
エミナの部屋で共に過ごすというだけで、興奮しているのにぴったりくっつかれていてはナインの心臓も持たない。
甘い匂いと声に、くらりと意識が飛んでしまいそうだった。
「お、おう。何から何までわりぃ!って、せんせぇ、む、胸あたってんぞ」
吐息がかかりそうなくらいに近づいて、気恥ずかしさから視線を外していると柔らかな胸が胸板に押し付けられていることに気づく。
白のシャツからは、うっすらと黒いブラが見えている。
淫らな胸元と、甘く洗脳されるような声音にナインも若い雄を抑えることで必死。

「かわいいねぇ。ごめんネ?おっぱい当たってるの、ナインくんに夢中で気付かなかった」
ナインの胸板に掌を密着させて、温もりを残すようにゆっくりとあげていく。

この状況は、非常に美味しくて、非常に息苦しい。

「エミナせんせぇ、俺の事からからかって楽しんでるだろ」
興奮していることを悟られない様に、ナインは一呼吸おいて耳元で問いかけた。
「遊んでないよ。本気だもの。せんせぇには興味ないカナ?」

艶っぽく動く唇を見つめて、試されているのか否かを探った。が、己よりも一枚も二枚も上手の彼女の真意までは探れなかった。

ならばせめて、彼女を誘惑してみようかと鎖骨に口づけた。
「ンっ……、キミの唇、舐めたいなぁ」
甘い声に、上乗せされたうっとりとした表情。

せくしーふぇろもん禁止。
年頃の男の子には効果絶大。
強まる雨音に負けないくらいの、男女の荒い息遣いが室内に響いた。



2012/06/23