鳥籠(ジュリー×アーデルハイト) | ナノ




鳥籠(ジュリー×アーデルハイト)
アーデルハイトは、シモンファミリーのボスである炎真にかかりっきりだった。
一に炎真、二に炎真。
シモンファミリーを一番に思っているのはアーデルハイトだということは明確だ。
シモン復興に全力を注ぐその姿は、凛々しくて誇らしくも有るのだが、ジュリーにとっては少し寂しくも有った。
たまには、此方へ意識を向けてほしいものだ。
18にもなったのだから、嫉妬だとか、醜い思いを全面に押し出すつもりは無かった。
荒んだ気持ちは、奥深くに締まって蓋をするのが一番の得策。

女が欲しければ、他でも求めればいい。
可愛い女の子を、引っかけて性欲を満たさば何も問題ない。
下種な考えだとは分かっているが、此方を見ないアーデルハイトへのささやかな抵抗。
向こうは向こうで、炎真にお熱なんのだから、恋人同士でもなんでもないのだからそれくらいは許されるはず。
そういう想いを抱えて、民宿を出て行ったのは今から数時間前の事だった。
可愛い女の子を引っかけて、ホテルで気持ちのいいことを――。

「なァんで、勃たねえの?壊れちった、オレのアレ?」
を、するつもりだったが、アーデルハイト以外の女へ食指が動かない。
男は下半身でモノを考えるものだから、とは言っていたが。
こうも気持ちが盛り上がらないとは――。
女に触れようとすると、アーデルハイトの顔が浮かんできて勃起どころの騒ぎではない。
アーデルハイトをおかずにすれば、すぐ勃起するのに。
アーデルハイトに浸食されているのだと、気付いて嬉しいような複雑なようなため息を一つ。
自由に振舞いたいのに、奥底の心は、素直で、シモンファミリーの右腕に従順だった。
ホテルを後にしてとぼとぼと帰るジュリーの背はどこか、寂しそう。



欠伸を繰り返して、しんと静まり返った廊下を歩いて脱衣所に急いだ。
「さっぱり、しますかねー」
ドアノブを開いて、呟いた先にはお風呂上りでほんのり赤みを帯びた艶めかしい肢体が一つ。
ぷくと浮き上がる乳首が見えて、ジュリーは眼鏡を上げて瞬きを繰り返した。

「!?や、やだ、ジュリー見ないで!」
髪を拭いていたアーデルハイトは、鏡越しに現れた男に目を見開いて胸元をぎゅうっと抱きしめた。
隠しきれていない乳房が、腕に食い込んで形を変えている様がまた卑猥。
鏡越しに、豊満な身体を見せられてジュリーは少し固まった。
エロ本でも、エロDVDでも、女体というものを見たことが有るのだから、この反応はオカシイ。
余裕ではいられなくて、視線はぎこちなく動く。平常心を取り戻そうとジュリーは、冗談交じりに呟いた。

「あー、わりー。アーデルちゃん、風呂上り、もっかいオレちんと一緒に入らない?」
へらっと笑ってみせると、アーデルハイトから罵声を浴びた。
「バカ!入らないわよ。早く出て行って!」
気の強いアーデルハイトが羞恥に瞳を潤ませている。裸体を見た事よりも、ジュリーにとってはこちらの方がぞくりとした。

「ごめんねー。でも、そんなエロい顔見せられたらオレもたまんねーつーか」
他の女では感じられない特別な感情と、憐れすぎるほどに大きくなる欲情にジュリーは身を任せた。

「……ッ!」
背後に回って強く抱きしめる。肩口に顎を置いて頬に口づけて、本能のまま一度舐めあげた。
アーデルハイトはきゅっと瞳を閉じて、背後からの刺激に耐える。
ジュリーの優しい愛撫にどうしていいか分からず、ただその指の動きを目を瞑って感じた。
「アーデルさー、炎真とえっちしたー?」
抵抗しないアーデルハイトを良いことに、鏡越しに見つめてジュリーは耳元で呟く。
「そんなことしてないわよ!」
素早い返答に、ジュリーも胸を撫で下した。
「ふーん。良かった。抱かれてたらすげームカついてた」
鏡越しに見える一つ一つの仕草が、ジュリーの欲情を掻きたてる。肩口への愛撫を唇でして、指先で谷間をなぞるとアーデルハイトの肩が大きく揺れた。
抵抗しないものだから、ジュリーの手は止まらない。流石に、まずいと動きを止めて耳元で問いかけた。
「なァんで、抵抗しねぇの?」
「……っ、だって、嫌じゃないもの…」
アーデルハイトの瞳は、切ない気に揺らいで視線を腹部に絡み付くジュリーの腕に向けた。
「は?マジですか?」
殴られて鼻血を出すのが定番だったが、このような可愛らしい反応には拍子抜け。指先を離すと、何度も瞬きをして問いかけた。
「ジュリー、私の事、女扱いしてないじゃない。こういう風に優しく触ってくれたことってなかったじゃない」
胸を隠す腕を解いて、アーデルハイトは鏡越しのジュリーを見つめた。
誘われているような熱視線。
鏡越しに見つめあったままだったが、アーデルハイトは振り返ってジュリーの本物の瞳を見つめた。


「女扱いしてねーなんて、言ってねぇだろ。仲間じゃねーよ。女としか見れてねぇよ」
「ジュリーにだけは、女として扱って欲しいの。沢山触ってほしいと思うのはイケナイ事かしら?」
股間を直撃するような誘い文句に、ジュリーは片眉を上げた。


異常なほどの性欲は、アーデルハイトにだけ向けられるもの。

甘くて狂おしいほどに捕らわれた。



2012/06/21