だいしんゆー(ナイン&シンク) | ナノ




だいしんゆー(ナイン&シンク)


居残りで課題を終えたナインとシンクは放課後デート、という訳では無くて性別越えて妙に気の合う二人はここ最近、放課後に恋愛について語り合っていた。


今日もまた、ナインの口から出るのは、ベタ惚れ中のエミナ・ハナハルの話題。
どうやって振り向かせるかの議論が始まっていた。
「ほっぺにアイスでもつけて、ぼせいほんのーくすぐってみたら?」
はっと思いついたような提案に、ナインは眉を寄せる。
「そんなんでエミナせんせぇは、俺にドキドキしてくれんのか?」
「ドキドキッ……、させるんだよ。んでね、ぎゅーって抱きついて、おっぱいもんで、押し倒しちゃうの」
可愛い顔して、過激な発言のシンクに、ナインは息を呑んだ。確かに、ドキドキはしてくれるかもしれないが、一歩間違えれば、間違えなくとも犯罪。
両腕を組んで、少し考えた。
結果、矢張り犯罪だと気付いた。
「……、それ、やったらマズくねぇ?エミナせんせぇ、傷つけたくねぇし。そういうのは、付き合ってからだろ。大事にしてぇよ」
「あはは、マズいね!ナイン、エミナせんせぇのおっぱいが好きなんじゃないんだ。いがーい」
エッチな話に乗ってくるかと思いきや、ナインにしては割とまともな返答と、意外にもしっかりと想っているのだと理解できる発言に感心した。

「おっぱいすげぇけど、そんだけじゃねぇよ。エミナせんせぇはなぁ」
あ、始まる。シンクの直感は当たった。
エミナの良さを延々と語るナインに適当な相槌だけして、空を見上げたり、自分の髪で遊んだり。
シンクは、自由だった。そして、ナインが語り始めてものの数秒で飽きていた。
「でな、エミナせんせぇがな……」
心底幸せそうな表情で語るナインを後目に、シンクの視線は先のアイスクリームショップに釘づけになっていた。
「へぇー、すごぉい。あっ、ナイン、アイスあるー。たべよー」
適当な所で切り上げると、ナインの腕を引っ張ってアイスクリームショップへと急ぐ。
まだまだ語り足りないナインは、渋々そこへ向かった。

シンクが頼むのは、チョコミント、チョコレート、キャラメルの激甘三段重ね。
ナインは、チョコレート、チョコレート、チョコレートのこれまた激甘三段重ね。
コーンの上に大きなアイスが三つ。二人は満足気に顔を見合わせた。
二人で仲良くベンチに座って、アイスを頬張っている。

「ナイン、○ん○っぽくて、ナイスチョイス!」
親指をぐっとあげて、ちょっぴりお下品なセリフもシンクの甘ったるい声で薄まったり……は勿論しない。

「おい、食う前から、う○ことかいってんじゃねぇ。俺のチョイスを舐めんな!」
「うん、ナインの口つけたものは絶対に舐めないぃ〜。これ、シンクちゃんポリシー。ゆるぎない決意ー」
いや、そういう意味じゃねぇしと、ナインは心の中で突っ込むだけにした。
汚物扱いされて、眉を寄せつつも大好きなチョコ―レートアイスを頬張った。

「オマエさー、俺のこと好きじゃねぇだろ。話は聞いてねぇし、毒舌過ぎて泣けてくるぜ、コラ!」
「そんな事ないよー。嫌いだったら、一緒にアイス食べたり、恋愛相談乗ったりしないでしょ」
「まあな。そりゃそうだ」
「シンクちゃんはぁ、ナインといると楽しいよ。ナインがエミナせんせぇの話を楽しそうにするのを見るのって好きだしぃ」
「おうって……嘘つけーい。俺の話、まともに聞いてなかっただろ、コラァ!」
優しい言葉に絆されそうになったが、ナインはシンクが自分の話を全く聞いていないことなど分かっていた。
そして、またすかさず突っ込む。
「あ、バレちゃった?」
あはっと笑うシンクは、溶けて指先に垂れるアイスを一舐めした。
「モロバレだ、コラ」
「細かいことは気にしなぁい。そんなこんなでぇ、シンクちゃんと、ナインはぁ、だいしんゆーってことでおっけぇ?気が合うもんね!」
「あ、まあ、そうだな。そういうことにしといてやるよ。恋愛相談もいつでもしてこい。相談に乗ってやっから。」
気が合うには、納得してしまう。
大親友という言葉には照れくさそうに頷いた。


「あ、恋愛相談での男の子からの意見はキングのを参考にするから。ナインは余計なことしないでね〜?絶対、やめてねぇ?」
いつものような笑顔は無くて、今までに見たことのないくらい冷たい笑顔。
辛辣な言葉がナインのハートをめった刺し。
ばっさり切り捨てられたような気がした。
先程まで、一緒にいて楽しいだの大親友だのいっていたのにこの仕打ち。

「ああ、そうか。キングなら良いアドバイスくれるよな……って、オイ!さっき、大親友とかいったじゃねぇか。少し頼れ!俺をたぶらかすんじゃねぇ!」
寂しくなって、即ノリ突っ込み。
「わー、誑かすなんて難しい言葉知ってるんだねぇ。シンクちゃん、すこーし見直したよ!」
「あーもー、そうじゃなくて、シンクのペースに呑まれたくぇのに!」
「のまれちゃってるし、癖になっちゃうでしょ?シンクちゃん、小悪魔かなぁ〜」
ふわふわ軽く笑うシンクに、ナインも怒る気も失せて冗談を続けた。

互いの隣が、居心地が良かった。
気を遣わない緩い関係。
恋愛とはまた違う特別で大切な関係。


2012/06/20