嫉妬、ときどき、常日頃。(クラサメ×エミナ/ver.K) | ナノ




嫉妬、ときどき、常日頃。(クラサメ×エミナ/ver.K)


「くらさめ、く……、激しっ、はぁ」
今宵のクラサメは、積極的だった。指先は優しく肌に触れる、しかし、強引に温もりを奪われてクラサメの印と感触を肌に擦りこまれている。
エミナは、そんな錯覚に陥って背をゾクゾクさせていた。呼吸をしようと唇を離せば、それすら許してくれない。
すぐに唇が重ねられて、強引に舌をねじ込まれる。乳房も、恥部も、荒々しい愛撫に悦んでいた。
「っふ、ね、まだ嫉妬、しちゃってるの?」
返事の代わりに、頬に触れるエミナの薬指を緩く掴んでねっとりと舐めた。

もう嫉妬ではない、と、クラサメは目を細めた。





「エミナさん、デートに誘おうかな」
栗色の士官の男は、近頃エミナにお熱のようだ。会議の後、わざとらしくぽつりと呟く。
クラサメは、エミナという名にピクリと反応しただけでそれ以外の興味を示さない。
エミナとクラサメの関係を知ってか知らずか、その男は続けた。
「……、同期なんですよね?彼女、恋人とかいるんですか?」
書類を片づけている最中だった。男の問いかけが、己へと向けられていると気付いたのは数秒後。
「さ、あ。そういった話はしたことが有りません」
目は口ほどにものを言うとはよく言ったものだ。知らない振りをしたクラサメだったが、机に向けた視線を右から左へと流した。
「そう、ですか。いてもいないくても関係ないのですが」
「……失礼します」
ならば、何故聞いたのか。牽制なのか。とクラサメは疑問に思ったが深く追求はせずにその場を去って行った。
気にしないでいると思えば、気になって少しだけ苛立つ。
ここで、自分がエミナの恋人だとはっきりと言えたらどんなに楽だろう。
嫉妬深い己にほとほと愛想を尽かせていた。優しい笑みは自分だけに向けてほしいだなんて、嫉妬深いに程がある。
触れ合う度に、深まる独占欲にクラサメ自身も嫌気がさしていた。
毎日、どこかでエミナの事を考えて、依存しているような己に不快感を抱いていた。

時折、クラサメはテラスに顔を出していた。勿論、エミナに会いに行っているのだが、それだけではない。
言葉は悪いが、エミナに纏わりつく男はいないのか威嚇と確認を含めて訪れている。
栗色の髪の士官はいない。ほっと安堵して、エミナに視線を向ける。
授業の始まりを教える鐘が鳴ると、院生たちがエミナから離れて行った。
男女問わずに向けるエミナの笑顔が大好きで、大嫌いだった。
テラスでは、他人よりももっと距離のある職場の同僚という関係。テラスで交わす言葉のぎこちなさにクラサメも笑ってしまいそうだった。




けれども、二人きりともなれば吐息も、距離も交わってしまうほどに近い。
皆の前で、穏やかに笑うエミナの面影は見えなくて、自らの下で淫らに鳴く。
募る優越感と、消えない独占欲が鬩ぎ合って欲情へと繋がる。
誰にも教えたくはないけれど、エミナは自分のものだという事は報せたい。

もっとと甘い声で強請って、愛欲を見せるエミナにクラサメは満足げに口端を緩めた。

今日の夕刻の一件で、クラサメは気付いた。

離したくないだなんて、温い言葉では締め付けてやらない。

他の男に向ける笑顔なんて壊れてしまえばいい。

離れるなんて、決して赦してはやらない。

嫉妬よりも愚かな激情に、笑った。


2012/06/16