獣に成って。(R15) | ナノ




獣に成って。(R15)


愛を囁き合うより、身体を重ね合う方が先だった。今夜も、深いキスの後にクラサメの手は器用にエミナの上着の中へと入りこむ。
冷たい指先が谷間を這う感触に、エミナの身体は素直に反応して薄い唇の端から吐息を漏らして小さく震えた。
エミナは黙って快感に耐えて、指の背を唇にあてがって甘い声が零れるのを必死に抑えていた。

女の肌に、起用に指が這う。
上着を脱がされて、ブラを外されると上半身が外界に晒される。抱かれたのは今日が初めてではないけれど、裸を見られるのは抵抗があった。
両腕で豊満な胸を隠せば、クラサメの視線が突き刺さる。

冷静な瞳が揺らいで、全てを見せろと訴えてくるのが分かる。
じれったそうなクラサメの瞳が、嬉しかった。
いつもここまでなのだ。雄を見せてくれるのは、ほんの一瞬。
覗こうとすれば、隠される。もっと、乱れたクラサメがみたいのに。
なんて思っていると、下肢まで脱がされてすっかり丸裸になっていた。

見上げるクラサメは、自分のカラダを見て欲情してくれているのか。
未だ見せてくれない雄の部分が、不満だった。
雄特有のねっとりとした視線ではなくて、冷静な目で見つめられる。求めているのは自分だけなのではと思うほどだった。


丸裸なエミナに対して、今日もまたクラサメは衣服を纏っている。口元は晒してくれているが。

今日こそは、自分以上に乱れてほしい。欲を隠さないでほしい。
お利口な愛撫ではなくて、激しく思いのままに愛されてみたくもなる。

「ねえっ、ちょっとすとっぷ。」
顔を背けて口づけを拒む。覆いかぶさるクラサメの胸板をぐいっと押して、丸裸の身体に柔らかいシーツを巻きつけた。
「そんな気分じゃなくなったのか?」
素っ気ない態度に僅かながら動揺したが、それを見せぬように至って冷静な表情を向けた。
エミナの肩にかかった長い髪を指先に緩く巻きつけて問う。

「ううん。シたいよ。クラサメくんとするの気持ちいいもん。」
ならば、どうして?クラサメは、絡めた髪を解いて一分前には重なるはずだった唇に触れた。

「クラサメくんも、脱いで。裸になってくれなきゃイヤ。」
クラサメの指先を掴んで、ぺろりと舐めるとふいっと顔を背けた。
勿論、裸にしてみたいのだが、見たいのはそれだけではなかった。心まで、さらけ出してくれるような気がしたから。
つまりは、全てを見せてということ。
子供のようだと、エミナ自身も分かっていた。が、心まで丸裸にしたかった。
獣みたいに、理性を失って激しく求められたい。
息が出来なくなるほどに抱きしめられて、愛されているのだと感じたい。
我儘な女の欲だと、小さく笑って、視線で強請った。


「拒んだら…どうする?」
嫌だと言葉を濁して返す。エミナの唇の触れた指先を一瞥して、すこし考える様に片眉を上げると両腕を組んだ。

「今日はこれでオシマイにしちゃうから。」
譲る気は無かった。散らばった下着やら服やらをかき集めて、どうする?と首を傾げて膝上にそれを置く。
待っても返答が無い。
そこまで求められていないのだと知れば寂しくて小さいため息をつくと衣服を身に纏おうと視線を逸らした。



「待て。私は嫌だとは言っていない。」
逞しい両腕に身体を挟まれて至近距離にある端正な顔に、くらり。
「じゃあ、脱いじゃおっか。」
袖をくいっとひっぱって、にっこりと笑った。その笑みに艶は見当たらなくて、どちらかというと何も知らない少女のようだった。

首に腕を回すと、エミナは下唇にちゅうっと吸い付いた。
「自分で脱いでも、面白みがない。」
つまりは、脱がせと。
眼前に、裸の恋人がいて表向きは冷静でも内心はそんな訳はない。氷剣の死神といえども、一人の男なのだ。
うまくそれを見せぬように、冷静な振りをしていたのに。
今まで押し殺してきた淫欲だとか、自分勝手に抱いてしまいたい想いが、クラサメの身体を廻って、容易く制御出来そうにない。
だから、こんな言葉が出てきた。




「こういうのもどきどきしちゃうネ。」
つい数分前にされたように指先をクラサメの首筋に這わせて、胸元を優しく撫でた。
ツウっと余韻を残すように触れて、クラサメを見上げる。いそいそと上着を脱がして、逞しい胸板を舌で舐めた。
ちゅと耳音にかかる優しい音と、布が擦れる音に、思考を揺さぶられる。

「クラサメくんも、はだか……。ふふっ、くすぐったい。」
一つ一つの動きを眺めていると、エミナと同じ産まれたままの姿となっていた。
すっかり気を許していれば、クラサメの上にエミナがお邪魔していた。
申し訳程度にシーツを纏うエミナが、丸裸の時よりも扇情的に見えて起き上がると暖かい手を取って指先を絡める。
柔らかい肌が、くすぐったくなるような声が興奮材料。

耐えきれないと唇を噛みしめた。盛りのついた雄の表情など、醜いのだ。見せたくなかった。
一旦、理性を失えば、獣に成り下がってしまう。

「優しくしてやれない。」
呟いたクラサメの声から、突き抜けた欲情が見えるとエミナは口端を緩めた。

「いいよ。好きにしていいから。」
こうされたかったと甘えるエミナに平静さは失われて、辛うじて表情は崩さないまま唇を重ねた。






2011/12/06