じょーだんスよ、先輩(シャルヤム+マスルール) 「なんでぇ。どこかダメか教えてマスルール君!」 だんっと勢いよく酒を置くヤムライハの鬼気迫る表情に、そろりと視線を向けて危険を察知したマスルールはすぐに視線を戻した。 「あー、いや、ダメなとこなんかないっスよ」 当たり障りのない言葉で返す。 ヤムライハのやけ酒に付き合わされているのは、シャルルカンとマスルール。 取っ組み合いの喧嘩になってはいけないので、マスルールを挟んで右側にヤムライハ。左側にシャルルカンという席順になっていた。 「色気は足りねぇ。魔法の話しかしねえから、男が出来ねえんだよ」 沈み込むヤムライハを楽しげに見つめるシャルルカンは、いつにもなく酒が進んでいた。 シャルルカンの言葉にぴくっと反応したヤムライハは、ぎりぎりと歯ぎしりを立てる。向かっていこうとするが、今日はそんな気分になれなかった。 たんまりと酒を浴びて、髭が素敵な年上の男性の事を忘れてやろうと思っていたのだ。 色気は足りない、まさにそうかもしれない。この所、魔法の研究で忙しかったから、身なりを整えるという最低限の事も出来ていなかったのかもしれない。 「う、うるさいわね。あんたにだけは言われたくないのよ。女に必要なのは色気だけじゃないわ!ねぇ、マスルール君!」 「そうっスね」 いつもの小競り合いが始まったと、二人の声を聞き流しつつ、マスルールは酒と豪華な食事で腹を満たしていた。 「こいつにっても、女の魅力も扱い方もわかんねえだろ。なあ、どーてーくん?」 ほんのり酔って気分のいいシャルルカンは、にやにやとマスルールを見つめて揶揄をする。 「女を口説いたこともねえんだろ」 反論しないマスルールを良いことに、シャルルカンは続けた。 「……」 いつもの事なので、スルーしていたマスルールだったが、にやにやとし続けるシャルルカンの表情に少しだけ苛立った。 むしゃくしゃしてるので、真横に座る先輩の鼻を明かしてやりたい。 腕に寄りかかる翡翠に目を付けた。呑んでいた酒を置いて、おしぼりで汚れた手を拭いた。 「一晩、俺と一緒に過ごしてくれませんか?」 ヤムライハの手をそっと握って、薬指に優しく口づける。マスルールの力強い瞳に射抜かれたヤムライハは、動揺した。 普段ならば、絶対に言わぬであろう言葉。 「ええっ、あの、その」 もじもじとするヤムライハに、見ていられなくなったシャルルカンは二人の間に割って入った。 「ま、マスルール。酔ってんのかよ。冗談はそんくらいにしとけ」 焦るシャルルカンを見ると、マスルールはどこか勝ち誇った目をして、再度手の甲に口づけるとそっと離した。 どきどきしっぱなしのヤムライハは、とろんとした表情でマスルールを見つめていた。 決して、シャルルカンに向けるような瞳ではない。シャルルカンも、色んな意味で動揺した。 「……、冗談じゃないって言ったらどうするんスか。あのひとを欲しがってんのは、先輩だけじゃないかもしんねぇっス」 「……マジかよ。こんな魔法おたくのどこがいいんだよ。信じらんねぇ……」 シャルルカンの引き攣る笑顔を酒の肴にして、その表情を楽しんだ。 マスルールがヤムライハにお熱だったらどうしようか。シャルルカンは余裕ぶっていたが、内心焦っていた。 マスルールは知っていた。無礼の塊のような男の弱点が、ヤムライハだということを。 じょーだんっスよ、先輩。―――多分。 2012/06/08 |