このくさりはあたたかい(アリババ×モルジアナ) 今の私は、奴隷ではない。 人に、戻った。心の臓にまで突き刺さるほどの痛みを伴う鉄の鎖は外れた。 人として、生きていいのだ。両足で地を踏んで、自由に駆け回っていいのだ。 そう思えたのも、奴隷身分を解放されて少し経った頃だった。 今、身に絡みつくのは穏やかな光のくさり。 「モルジアナ、顔つきが優しくなったよな」 アリババは、シャルルカンとの剣術を終えて、同じく、マスルールとの修行を終えたモルジアナと落ち合っていた。 明るい月とは対照的に、紅く輝く髪に目を細めた。出会った当初よりも、表情も声音も優しくなった気がしていた。 人としての尊厳を取り戻して、今を楽しんでいるように思えた。 「……自分では、よくわかりません。ただ、あなたがたといると暖かくて優しい気持ちでいっぱいになれます」 手を後ろ手に組んで、アリババから視線を外したモルジアナはゆっくりと口を開いて紡いだ。 アリババに、こうも真っ直ぐと見据えられると気恥ずかしく感じる。 変わらぬ優しい笑顔に、モルジアナは引きこまれるように僅かに口端を緩めた。 「おっ、嬉しいこと言ってくれるね〜。こうやって、ずーっと一緒にいられたらいいよなっ!」 彼の口から、思いも寄らぬ言葉が出てきた。 「ずっと、ですか?いてもいいんですか?」 思いも寄らな言葉に、驚く。そして、身を乗り出して真意を問うた。 「ああ、まあ、いつかは、モルジアナも良い男と結婚して、離れちまうんだろうけど。それまでは、ずっとな」 「私は、アリババさんの傍から離れたりはしません。この身を、生涯、貴方だけに捧げます」 首を振った後に見せてくれたのは、少女らしい笑顔。アリババも、ふっと微笑んだ。 「なんっか、プロポーズみたいで恥ずかしいんですけど。ありがとう」 紅い瞳に偽りは映っていない。どう答えていいか迷ったアリババは、頬を掻いて視線を巡らせて照れくさそうに答えた。 闇の鎖からは解放された。 モルジアナを纏うのは、暖かな陽差ざしを与えてくれるくさり。 出来るなら、その優しいくさりで雁字搦めにしてずっと離さないで欲しい。 この縁が、途切れてしまわない様にと見えないくさりをきゅっと強く抱きしめた。 2012/06/07 |