翡翠の君 | ナノ



翡翠の君
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ヤムライハとアラジンの修行はどうなっているのか。
ライバルの状況が気になって、浮かぶ顔は気の合わない女。思い出すと眉を寄せて首を振った。
「あー、今日も良く頑張ったぜ。ご褒美は綺麗なオネーチャンとこだな」
アリババとの修行を終えたシャルルカンは、ぐーっと背伸びをして落ち行く夕日を眺めた。
からっと晴れていて夜空にも星が煌めいている。こんな気分のいい日には、お目当てのお店で、お目当ての女の子たちと酒を飲む。
それが、最高のご褒美なのだ。

「あー、ししょー、すんませーん。今日は、ちょっと外せない用事が」
弟子でもあるアリババを誘って、パーッと豪華に、と思ったがやんわりとお断りをされてしまった。
仕方ないと思いつつも、お気に入りの店へ足早に向かった。

「シャルルカン様、今日はお一人ですか?」
露出の高いドレスに、艶やかな唇。店で一番人気の女が、シャルルカンの隣を陣取った。
男くさい修行の後は、矢張りこれなのだとシャルルカンの口端は自然と緩んだ。
「おう。俺一人で、じゅーぶんだろ」
女に注がれた酒を、喉音を鳴らして飲み干す。女も、笑って頷いた。
「ええ、十分すぎるくらい。今日はどんな一日でした?」
一番人気というのも頷ける。酒が開けばさりげなく注いて、穏やかな笑みと口調で癒してくれる。女の声を聴いて、シャルルカンは今日、有ったことを述べて行った。
先ずは、アリババという一番弟子が出来た事。
そして、ヤムライハと小競り合った事。女は、絶妙なタイミングで相槌を打った。
「ふふっ、相変わらず、ヤムライハ様と」
「あー、あいつの名前出したら嫌な気分になっちまった」
グラスに残る酒を左右に揺らして、思い切り顔をしかめて水面に映る自分の顔を覗き込むと一気にそれを飲み干した。
女は、グラスが空くとすぐに酒を注ぐ。
「嘘つきですわ。ヤムライハ様のお名前を出すときのシャルルカン様のお顔。楽しそうで、凄く素敵ですもの」
女は緩やかに笑って、魔法使いの女性の名を出す時の彼のの表情を教えた。
「……ハァ?嬉しそうにしてねえよ」
ぎくりと高鳴る心音を振り切って、大げさに首を振った。
「いいえ。しております。気付いていらっしゃらないのね」
シャルルカンの動揺に気づくと、女は続けた。
「シャルルカン様の好きなお酒、翡翠色のこれですものね。というより、これしか好んで飲まれない。頭の中に、いつもヤムライハ様がいらっしゃるのでは?」
不機嫌そうなシャルルカンにぴったりと寄り添って、ご機嫌を窺う女は本日何度目かの翡翠色の酒をグラスに注いだ。
「……俺は、この酒しか知らねえんだよ。別に、あの魔法おたくなんて興味ねえって」
白に近い銀の髪をくしゃりと掴んで、首を振った。
ヤムライハの話をすれば心が温かくなるのは確かなる事実。
「あんな女はタイプじゃねえ」
翡翠色の酒を覗き込んで、浮かぶのは彼の人。首を横に振った。

いつでも、ヤムライハが頭の中にいるだなんて、未だ認めたくは無かった。





2012/06/06










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