トンベリと、クラサメくんと。 | ナノ




トンベリと、クラサメくんと。


「ヒトに嫉妬するならまだしも、トンベリにか。」
猫脚バスタブで薔薇の香の入浴剤を楽しみながら、湯気にため息とともに零した。
恋敵という訳でもないのだが、クラサメの背後に控えるのはトンベリで。
同期の自分よりも遥かに信頼されているであろうモンスター、否、『彼』といった方が正しい存在にため息をついた。
クラスゼロの指揮隊長ともあって、現在の彼は非常に多忙のようでエミナの元に訪れることが少なくなっていた。
互いに仕事を尊重して、大人の恋愛をしているつもりである。
だからこそ、負担にならないよう心掛けていた。
寂しいだとか、会いたいだとか言えるはずもなく恋人同士の触れ合いもないままに一週間が過ぎて行った。
トンベリなら、いつでも傍にいられるのに。掴んだ泡が消えて、幼稚な己の考えまで打ち消されたようだった。
浴室に笑い声が響いて寂しくもなる。
一人での湯浴みは、それはそれは面白くもなくて幾度も泡を掴んだり、腕に纏わせてみたりと遊んでいたがすぐに飽きた。
艶めかしい身体に泡を纏わせて、バスタブから出るとシャワーを浴びて身体を清めた。鼻歌交じりにバスタオルで身体を拭いて、それを身体に巻き付けるとリビングへと向かう。

「はあ、ツマンナイ。浮気しちゃうゾ!」
フラストレーションがたまっているのか、予想以上に声は大きくて室内に響いた。
「それは、困る、な。」
誰かに向けた言葉ではないのに、僅かに焦ったように聞こえる声が返ってきた。思わずエミナは、唇を手で押さえた。
「クラサメ君!あれ?なんで、忙しいんじゃ……。」
目を擦って見つめた先には、逢いたくて仕方がなかった人がいる。驚きと喜びに、際どい姿で近づいた。
しかし、そこにトンベリの姿は無い。首を傾げて、問いかける。
「もしかして、お一人様?相棒ちゃんは?」
クラサメが指差す先は扉の向こう側。
話を聞けば、会議が早めに切りあがって帰宅しようとしたところトンベリが反対の方向に歩き始めたらしい。
普段と違う行動をするものだから、不思議に思ってクラサメはその後をついて行った。すると、着いた先はエミナの所。
扉の前でじっと立って、入れといいたげにクラサメに視線を送ったらしい。大人しく入らないと包丁で突き刺しちゃうよ。と目が言っている気がして促されるまま合鍵を使って部屋に入っていった。
トンベリはクラサメの気持ちが分かっているのかもしれない。だから、ここまで連れてきてくれた。
「会いたかったのかも、な。」
己の気持ちをぼかして、トンベリのせいにしてみた。
「どっちが?」
「……、それは、私が、だ。」
見慣れていないエミナの谷間から視線を逸らして、素直に呟いた。
「ワタシも、会いたかった。」
ふふっと笑って、クラサメに遠慮することなく抱きついた。トンベリに嫉妬してしまったことを恥じて、クラサメを自分の元に連れてきてくれたことに感謝した。
「一人じゃ、サミシイよね。部屋に呼ぼうか。」
扉の向こうで包丁構えているであろうドンペリと心配しつつ、クラサメの耳元で呟いた。
「もう少しだけ、二人きりが良い。」
エミナの身体が冷たくならぬようにと、強く抱きしめた。





2011/11/25