めろめろ | ナノ




めろめろ
めろめろなのだ。


「兄様、兄様、頂いてもよろしいのですか???」
現世土産のウサギのぬいぐるみを大量にもらったルキアは凛とした表情を崩して、嬉しそうに顔を綻ばせた。
そんな義妹の表情を見れば白哉の表情もどこか穏やかなものとなる。

「ルキア、それほどまでに愛しいか?」
撫でたり、抱きしめたり。愛でるルキアを横目で見遣って問いかける。
「兄様、はい。ルキアはめろめろでございます。」
むぎゅっとうさちゃんを抱きしめて、聞きなれぬ言葉を放つルキアに眉を寄せた。
「めろめろとは現世の言葉か?」
「めろめろとは物事におぼれて本来の正常な精神活動が行われなかったり腰くだけになったりするさま(広!辞!苑!)で御座います。」
ゆるりと頷いて、いつだったか現世の辞書で見た意味を教えた。



くだらぬ。
『めろめろ』という感情は己の中に芽生えることは無いだろうと確信すると、聞き流して十番隊副官の元へ急いだ。
朽木邸よりも、乱菊の家へ。当たり前に刷り込まれた自分の行動に疑いなど持つ筈もない。

陽も落ちて、映える景色は、同化してしまうほどの漆黒で。その闇に紛れてしまうのではないかという錯覚に陥る。
障子を開けると見えた鮮やかな金色と、明るい笑顔に声音、先程までの錯覚は吹き飛ばされて、浮かぶのは僅かながらの笑み。
「たいちょー、お帰りなさい。ご無事で何よりです。」
乱菊らしいといった所か、薄桃の絹の長襦袢に胸元を出して帯紐を緩く止めただけの格好で、顔が見えたと同時に思いきり抱きついた。
自慢の胸を押し当てて。

「ただいま。変わった事は無かったか?」
たった数日、離れていただけなのに何年も触れていないような気がする。
思いのまま白哉は抱きしめた。仄かに漂う金木犀の香に心を落ち着かせて、無意識に乱菊の首筋に口づけを落とす。

「っ、な、いです。ただ、朽木隊長がいない夜が寂しかったです。」
首元にかかる久方ぶりのように感じる熱に、乱菊はよろめいてしまいそうな下肢をしっかりと支えて、白哉の胸元に身体を預けた。
そして、声に残したのは、独りで過ごした夜の事。
共に過ごす日々が自然と生活に溶け込んでいたため、ぬくもりを感じられない日々がどうしようもなく寂しく感じた。
抱きついたら、跳ね返されるとばかり思っていたが思いのほか男の腕は優しく受け入れてくれた。ので、すりすりとすり寄って、くっついて甘える事にした。

「……、私の心を乱すな。」
姉御肌の乱菊とは違って、しゅんとしおらしく甘える姿が可愛らしくも感じて、不覚にもよろめきそうになった。
思いきり、抱きしめて、一晩中愛でたい衝動に駆られる。

「?朽木隊長も、寂しさかったなんて……、ないですよね。あたしだけかな。」
大好きな胸板に甘えていた乱菊は、聞きと取れなかったために顔を上げて問いかける。
見上げられて、加えて控えめな発言に、白哉の心はあっさり堕ちた。


『物事におぼれて本来の正常な精神活動が行われなかったり腰くだけになったりするさま』

先程の、ルキアの言葉が脳裏に過った。
生涯かけて感じることなどないと思っていたのに。
『めろめろ』等、溺れる己なんて想像できぬ。浮つく心を振り切ってしまいたかったが、乱菊への想いに打ち負けた。

「私も、兄と同じ気持ちだ。渇き切った心と身体、慰めて、満たしてはくれぬか。」

愛しさ余って、躍り出た理性崩壊した言葉。

本来の正常な判断が出来ていないとは分かっていたが、最早、白哉は制御する気などはなかった。

それほどまでに。乱菊に。







2011/11/19