先手必勝(恋次→織姫) | ナノ




先手必勝(恋次→織姫)
現世は好きだ。
尸魂界とは、空気も、人の流れも違えば、そこにある想いもまた異なる。
現世を嫌う死神は多いけれど、恋次の肌にはしっとりと馴染んでいた。


そして、空座高校も好きだ。廊下を闊歩するには、目立ちすぎる高く結われた紅髪と深く刻まれた刺青。
好奇の視線を浴びれど、恋次はぴくりとも反応しなかった。
現世探索なんて託けてみたものの、淡い恋心からのものなのだ。
ここに来たのは、他でもないあの子に逢うため。
高校生男子よりも一段高い視界で、意中の彼の人を探す。
落ちかける太陽にも視線を向けて探っていると、腕にぴとりと心地いいぬくもりを感じた。


見つけたというよりは、見つけられた。
「わあ、恋次くんだー。ちょっと大人っぽくなった?」
優しい声音と、柔らかい笑顔に口端が緩む。けれども、そんな情けない顔を見られたくなくてそっぽ向いて知らぬふりをした。
「あ?とっくの昔にオトナになってんだよ。」
「そうだったね。実は、すっごくオトナだったんだよね。」
「……オトナだって思ってねえだろ。まあ、いいけどよ。一護はどーした。」
弾む会話が楽しかったのだが、照れ隠しに零れたのは、彼女の想い人。
どんな反応をするのか気になってそろりと視線を戻す。
見なければよかった後悔したが時既に遅し。
織姫が一護に好意を寄せていることなど、恋愛感情などに疎い恋次でもわかった。
それはもう、ずっとずっと前からのこと。
頬が紅く灯って、視線がぎこちなくも忙しなく往復する。
口にせずにこうも分かりやすく仄かな恋情を見せつけてくれると、流石の恋次の心も切なく揺らいだ。

見たくないというのが素直な気持ち。だが、織姫の想いを捻じ曲げて、否定することなどできない。
暖かくて優しいその気持ちは、織姫だけの大切な気持ちだから。


「黒崎くんは、バイトです。」
バイトって何だ?と恋次が聞くと、織姫が分かりやすく教えてくれた。
「恋次くん、会いたかった?」
首を傾げて可愛らしく問いかけられては、胸キュンも良い所。

「べつに、会いたいのはアイツじゃねえよ。」
何とも言えない笑みが溢れて首を横に振って否定した。
「あ、わかったぁ!石田くんだね。」
「違うッつーの。」
「茶渡くんですか!」
「もーいーぜ。」
野郎に逢いたいわけがあるか!会いたかったのは、オマエに、だ。
なんて、言いたげな視線を向けた恋次だったが、そっと下した。
言わないとわからない、鈍感すぎる織姫。言ったとしてもすぐには理解してくれなくて、質問を返されるだろう。

「黒崎くんは、会いたがってたよ。あのね、みんなでたい焼き食べたときに恋次くんの話が出てきたの。でね、その時黒崎くんがね、」
黒崎くん、黒崎くんってどんだけ好きなんだよ。こんなの聞きたくねえのに。
織姫の頭の中を締めるのは、九割が一護の事で、残りの一割は奇怪なものを食べることなのだろう。仮に、だけれども。きっとそう。
そんなことを考えていると、ちょっとだけむしゃくしゃした。下した視線は素早く、織姫の脚、腹、胸。そして、くりっとした瞳へ上って行った。


「ばかおりひめ、少しは俺の気持ちも考えろ。」
一緒にいる時だけで良いから、今このときは俺の事だけ考えろ。
意識を己に向けて欲しくて荒い言葉で、初めて名を呼んだ。
「????ばかは言っちゃだめだよ。あたしは、バカじゃなくてあほだもん!」
「そっちかよ。嘘だっつーの。ばかでもあほでもねえよ。意地悪し過ぎた、悪りィ!」
名前で呼んだことに反応するかと思えば――。
ずれた返答に、織姫らしいと大きく笑った。むうっと頬を膨らませていた織姫も、頬を緩めて笑う。
「恋次くんのそーゆーとこ好きだなぁ。素直で、明るくてやさしいとこ!」
一護へ向けるものと違う感情だということは、恋次も分かっているのだが、いざ好きだと伝えられると嬉しくて照れてしまうもの。
顔を真っ赤にして、分かりやすく照れた。
「ば、ばーか。好きとか気易くいってんじゃねえよ!」
「あはは、恋次くん、照れてるねぇ〜。」


井上が、一護の事を好きだからって遠慮することねえか。
マイナスから、ゼロんとこまで持って行ってやる。

ってことで、思いつきました。

「今日から、現世で修行することになった。つー訳で、井上ン家に住まわせてくれ。」



一護よりも、一秒でも長くいれば少しはこちらへ向く可能性があるかもしれない。

友達から、男だと意識してもらうために先手必勝。









2012/03/24