I don't want to hear | ナノ




I don't want to hear
ヒマを頂きまして、恋次と織姫が在るのは尸魂界。
鋭い視線の隊長不在の隊社でソファに座り込んでのんびりお話し中。恋次の膝の上に織姫がすっぽりと埋まっている。
白哉の目を盗んでたっぷりラブラブ中。
見られらたふしだらだ、とか言われるのだろうか。まあ、今はそんなことはどうでも良くて温かい気持ちに浸っておこう。腹部に手を回して恋次は密かに思った。
そんな事はさて置いて、親友のたつきちゃんとやらの話しは中々興味深い。へえとかそうかとか相槌を打ちつつもしっかりと耳に入れていた。
まだまだ親友のたつきちゃんとのお話が聴けるのだろうと思っていた、が。

「恋次くん!恋次くん、あのね、あのね、それでね黒崎くんがね!」
先程までは心地よい声音を耳を澄まして聞いていた恋次なのだが、不意に飛び出した男の名に白哉以上に眉を寄せて険しい表情を浮かべた。
それは、まるで鬼の形相。
今日は一段と厳しい面持ちだ。その後も、嬉々たる表情で無邪気に紡ぐ織姫とは対照的に、黙っている。
聞きたくない、聞いていないアピールをしているかの如く、織姫のスカートをめくってみたり、一人遊びを始めた。

「………。」
「恋次くん、何か言って。もぉー、お話聞いてないでしょ。」
「あー、キイテマス。」
目を細めて棒読み。織姫の腹部から手を離して欠伸交じりの背伸びをして返す。明らかに、退屈です、と言わんばかりの行動。
「うそぉ!たつきちゃんのお話だったら相槌うってくれるのにー!」
「聞いてるっつうの。続きをどーぞ。」
むくれる織姫よそ目に、ため息混じりに呟く。

「もーいーです。」
相手にされていないことに気づいた織姫は、背もたれにしていた胸板から身体を起こして、むうっと頬を膨らませた。

ご機嫌ナナメ、のご様子の織姫に気付けば、指先に胡桃の髪を絡めて戯れて、飽きるとまた後ろからぎゅっと抱きしめた。

「聞くから話せよ。黒崎くんがどうした?」

彼女の生活に一護が密着しているのが気に入らないのだ。ただそれだけ。聞きたくないけど、ご機嫌窺いのため。
わざとその男の名を強調した。

「もういいです。」
膨れたままの織姫は、抱きしめられると、その優しさに甘えて、恋次の広くて厚い胸板を背もたれにした。
「そうか、じゃあいい。」
別に知らなくても良い情報。知りたくない二人の関係。恋次はあっさりと引き返した。
「……黒崎くんのお話するときだけご機嫌ナナメになりますな。」
「……まあな。」
「どうして?」
「オマエがくろさきくんって呼ぶのは好きじゃねえし、一護の話なんて聞きたくねえし、俺といるときくらい一護のことは忘れろ。」
一護の『い』の字も聞きたくない。織姫の心にいつだって存在し続けるのが気に入らない。
今ここで、ぬくもりを分け合っているのは、黒崎一護ではなくて阿散井恋次なのに。
「ヤキモチ?妬いちゃってくれてるの?」
力強い腕に抱きしめられて、耳元で囁かれる言葉にきゅんっとなりつつ織姫は顔だけを向けた。至近距離に移る恋次の視線に耐え切れずにふいと逸らす。
「悪りィか。もう妬かせんな。おりひめ。」
要するに、俺だけ見てろってこと。

次、一護の話したら、尸魂界から、いや、俺の腕の中から出してやらねえから。









2011/11/19