一時間前から準備万端です。 | ナノ

一時間前から準備万端です。

ナインからのお誘いで、ハジメテの休日デート。
純粋なお誘いにくすぐったい気持ちを抱いて、エミナは短いスカートの裾をきゅっと掴んだ。
黒いのコートの中には、白いカットソーと黒のミニスカ、ブーツ姿。
プライベートでのデートということもあってか、気合は入っていた。武官で有る『エミナ』を想起させないようにとまとめた髪も下した。
今日は、存分に恋人気分を味わいたい。
待ち合わせの場所は、恋人達で溢れる大きな広場。10分前行動をと、腕時計を一瞥して急いだ。
「ちゃんと起きてるかな?」
普段の彼を思い出して、ふっと穏やかな笑みを作る。何となくだが、遅れてくることが予想出来たから。
のんびりと色づく街並みを眺めて、待ち合わせの場所につくと目を引く金髪の少年が辺りを睨みつけていた。
ファー付ハーフコートのポケットに手を突っ込んで、白い吐息を残しながら待っている。エミナは慌てて近づいた。
てっきり、気怠様子で現れると思っていたのに。
時間通り、否、それ以上。

「はやーい。遅くなってごめんね。」
私服のナインに目を奪われてはっとなると、エミナは胸の前で手を合わせてすまなそうに頭を下げた。
「別に、さっき来たんだ。待ってねぇよ。」
私服のエミナを見れば照れくさそうに顔を背けて、ポケットから手を出した。右手を上げてくしゃくしゃと髪を掻き上げる。
魔導院とは違う互いの姿に、二人とも少し緊張していた。

「ふふっ、そのコート似合ってる。」
「アンタも……、可愛いぞ、コラ。」
恥ずかしいのか可愛いという言葉が出てくるまでかなりの時間がかかった。
素直な気持ちに嬉しくなると、隙を見てエミナはナインの隣に寄り添った。
そして、暖かいであろう彼の手に触れる。ナインの大きな手に自分のそれを重ねて指を絡めさせた。
意外や意外にナインの手は凍るように冷たい。また、予想を裏切られたと目を丸くした。
つい先ほど来たという割には、冷たい手。芯から冷えている事が窺える。
「……手、冷たいネ。凍ってるみたいだよ。」
ナインは指を開いて、訪れた温もりにぴくりと反応した。
「……、そりゃ、一時間前にきたからな。」
言うつもりは毛頭なかったのに、ついぽろりと零してしまった。
「どうしてそんなに早く来たの?」
エミナにねぇねぇと袖を引っ張られては無視できない。ぐるりと視線を廻して向けると、背けた顔をエミナの方へと向けた。
「マキナが、好きな女は待たせるもんじゃねぇっつーから、だから、気合入れて来たんだよ……だぁー、って、もういいだろ行くぞ。」
好きな女という言葉にエミナの口端もついつい緩んでしまう。準備も、気合も十分のナインを見上げて両腕で逞しい右腕を掴んで豊満な胸へと招いて抱きしめる。
勿論、指はしっかりと絡めたまま。
「なぁんか、嬉しいな。手、あっためてあげる。」
遠慮がちだったナインも応える様にエミナの指にきゅっと強く絡み付けた。
エミナは絡まった二つの手を持ち上げて、誰も見ていないことを確認して人差し指に口づけた。
「――ッ、手だけじゃなくて、か、カラダも暖めてくれよ、コラァ!」
指先への口づけが、ナインには誘惑にも感じた。
加えてむにむにと柔らかい胸が腕に当たると、若い男の性が暴走しそうになる。勢い余って荒っぽく呟いてみた。

こっちの方は、一時間以上前から準備万端です。とでも言いた気。

「えっち。そういうのやだよ。」
素直過ぎるナインをじっと見つめてわざと素っ気なく放てば、顔を背けた。
「おい、冗談だっつーんだよ。」
寂しそうな、焦ったようなナインの声が耳に届くとエミナは、からかい過ぎたと肩を揺らして笑う。
「うそうそ、一時間も前から待っててくれたんだもん。待たせたお詫び必要だよね。手だけじゃ足りないデショ?」


悪戯に口端を上げるエミナに、ナインは何度も首を縦に振って頷いた。



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2011/12/17

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