晴れた休日
「晴れたな!洗車行くで!」
「えぇ……?」
珍しく2人のオフ日が重なった土曜日の朝。元気一杯の声と共に開かれたカーテンの向こうからは、昨晩夜更かしをしていたわたしの目を軽蔑するような眩しい朝日が差し込んでいた。
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「ねぇ、普通こういうのってガソスタにお願いするんじゃないの?」
「普段世話になっとんやから愛情持って自分の手で洗ってやるんが礼儀やろ!」
「そうかもしれないけど……」
汚れてもいいTシャツとハーフパンツに着替えて洗車用スポンジ片手にぼやいてみるが、車の持ち主である侑にはどうやら一ミリも響いていないらしい。
少しお金を払えば最新の洗車機がサクサク洗ってくれるこの時代、せっかくのオフ日だというのにわざわざコイン洗車場まで足を運び、大人2人が洗車なんて時間と労力の無駄ではないだろうか。
額に浮かぶ汗を拭いながら洗車代くらい払うんだけどなぁ……なんて思うわけだけど、侑の言うように日々お世話になっている大事な愛車は機械に任せるよりも手洗いしたほうが安心なのだろうか。それに、こうやって青空の下で陽の光を浴びながら体を動かして汗をかくのもたまにはいいかもしれない。
そう、思っていたのだが。
「ぎゃー!冷たい!最悪!」
「はっは!ボケッとしとるからや」
「濡れたじゃん!何すんの!?」
突如頭上から降ってきたのは冷たい霧。天に向けられた高圧洗浄機から吐出された水が重力に負け、わたし目掛けて落ちてくる。濡れても汚れてもいい服を着てきたとはいえこれは想定外だ。
一瞬で水浸しになってしまった怒りで罵声を浴びせてみるも、当の本人は悪びれもせずに笑い飛ばすのみ。ムカつくのに憎めない。だから、余計に腹が立つ。
「汗もかいとるし、帰ったら一緒にシャワー浴びよか?」
「すぐそういう事言う……絶対イヤ」
「何やねん、俺のこと愛しとらんのか!?」
「そういう話じゃないから!」
ていうかわたしがびしょ濡れになったら帰宅するまでに助手席のシートが濡れるんですけど?そこらへん分かってふざけてんの?
冷静になったらやっぱりムカついてきて、気付けばスポンジをコンクリートの地面に叩きつけていた。いつの間にか洗車そっちのけで勃発してしまったのは小学生みたいな殴り合いの喧嘩。近くにいたおじさんから「若いモンは元気やなぁ」なんて笑われてしまったが、反応する気にもなれなかった。こうなったら侑のパンツも水浸しにしてやる!
(20210504)
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