コペルニクスの地動説


結局準決勝で稲実に負けてしまった我が青道高校。あの成宮に負けたことが悔しくて悔しくて、レギュラーメンバーの一也ですら泣かなかった試合後に、ただのチア要員であるわたしは声を上げて泣きじゃくった。

「もう泣くなよ、次は負けねーから」
「ほんとに?絶対だよ?」
「まぁ、勝負の世界だから分かんねーけど…」
「しっかりしてよ青道の正捕手!」

いやそんなこと言われても…と苦笑する一也に、あんたが弱気でどうする!と喝を入れてやる。
その直後、突如わたしのケータイが震えた。嫌な予感がして恐る恐るメールを開くと、今一番見たくない名前から【明日の午後ヒマ?】なんてメールが届いているではないか。

「ヒィー!成宮!」
「何、お前らいつの間に連絡先交換したの?」
「交換なんてしてないよ、こないだ球場で会った時にケータイ取られて無理矢理登録されたの!」
「へぇ、あの鳴がねぇ…」

意味深な顔でそう呟く一也に「どうにかしてよあの王様!」と助けを乞うが、知らねーよと至極面倒くさそうにあしらわれた。ひどい、幼馴染なのにひどすぎる。

「ぎゃ!電話かかってきた!」
「鳴、短気だな〜」
「笑ってる場合か!」

開きっぱなしのケータイ画面に【成宮鳴】という悪魔の名前が表示され、唸りを上げてブルブル震えている。早く出ろよと急かす一也に他人事だと思って…!と恨み節を吐きつつボタンを押すと、すっかり聞き慣れたワガママ王子の声が聞こえてきた。

『出るのが遅い!ていうかなんでメール返してくんないの?』
「いや、さっき開いたばっかだし…なんなの?稲実って暇なの?」
『甲子園始まるまでちょっと時間あるから投手の俺は明日の練習フリーなんだよね〜てことで名前、こっち来てよ』
「話聞いてた?イヤミ?ていうか何で?嫌だ」
『断ったら名前が欠伸してる間抜けな写真ネット上にばら撒くから』
「何それいつ撮ったの!?」
『こないだ球場でたまたま。待ち合わせの場所と時間、あとでメールするから!じゃあね〜』
「ちょっ、待っ」

ぷつりと切れた電話の向こう側に殺意を覚え、思わず握りしめたケータイがみしりと悲鳴をあげた。
何、呼び出し?どういうこと?意味が分かんないんだけど。

「なんやかんや気に入られてんじゃねーか」
「どこが!?」

隠し撮りのネタでゆするなんて脅迫じゃん。犯罪じゃん!
必死に訴えてみるがはっはっは!と笑うばかりで話にならない。成宮どころか一也にも殺意が芽生えそうなんだけど。こいつら揃いも揃って頭おかしいんじゃない。
ほんと、どうかしてる。


(20210105)
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