「いちのせ!」
「ん?」


土門の手に乗っているのは1つのモンスターボール。俺はそれを受け取ろうと身体を起こした。昔怪我をした足の後遺症克服のために手術を受けた後だった。まだ足には違和感が残っているし簡単に身体を動かすことも出来ない。でも、モンスターボール?


「なんだよ、これ」
「プレゼントだ。俺と、あとユニコーンのチームメイトから」


開けてみろよ、と土門が屈託のない笑顔で笑うので開ける、つまり投げればいいのだろうけれど、モンスターボールを真っ白な床へと放った。ポン、と軽快な音を立ててみるみると姿を現したのは土門なんかよりも遥かに大きい、


「ウィンディ?」
「おっ、正解!」
「‥‥なんで、こんなところに」
「だってよ、一之瀬が前ウィンディに乗りたいって言ってたろ」


前?と、きょとんとする俺に土門は苦笑した。


「前って‥お前、もしかして俺が事故に遭った時かよ?」
「おう、あたり前だろ」
「確かに言ったけど‥でも、おまえ」
「ん?なんだよ」


そんな随分前の事を引っ張りだしてきて‥第一、よく覚えていたよなあ。俺の密かな感動を余所に土門は今まで大人しく待っていた御主人に忠実らしいウィンディを撫でていた。気持ちよさそうに目を細めるウィンディに俺も手を伸ばす。もふ、と触れる温かい感触に強かな感動を覚える。


「わおん」
「お?一之瀬のこと気に入ったか?よーしよし」
「ウィンディ、土門が捕まえたのかよ」
「ん?まーな」
「‥‥よく覚えてたな」
「一之瀬が乗りたいって言ってた時のことか?」
「‥おう」
「忘れねえよ。幼馴染だろ」
「がうっ!」
「ウィンディが返事するなよ、ったく」


幼馴染はあまり関係のないような気がするけれど、目の前でウィンディを撫でくり回す幼馴染を見て少し、感謝だ。いつもこの部屋に来客者が居る訳ではない。けれどウィンディの存在一つで凄く変わるような気がする。感じる空気が、二つ。今頃、円堂やディラン達はサッカーをしているんだろうな。












土門が帰って、日も傾いてウィンディは床に丸まって目を伏せて、どうやら寝ているみたいだった。多分、俺なんかより土門とか他のユニコーンのメンバーの方に懐いているのだろうけれど、なかなかスキンシップを取ることが出来ない俺にウィンディは優しく待ってくれているようだった。今、凄く撫でたいのに身体をこれ以上伸ばせば床に落ちてしまうんだろうなあ。と思ってなかなか踏み出せない。ガタ、と音を立ててしまうとウィンディの大きな眼がパチりと開いた。俺はウィンディに手を伸ばした不思議な格好をしている。何だか恥ずかしくて直ぐに体勢を戻そうとすれば全てを悟ったかのようにゆっくりとウィンディが側に来た。


「‥‥‥」


こういう時、何て言えばいいのか分からない。無言で頭を撫でるだけの俺にウィンディは優しく笑った。そして大きく欠伸。寝ていたところを起こしたんだ、悪い事をしたな、と思っていればウィンディの大きな前足が徐に俺の手を触った。ペットの犬的に言う、お手というやつだ。


「‥お、手?」
「がう!」
「‥おかわり」
「がうっ!」


スキンシップ、取れているのかな。一人になることが増えてから、不安を覚えるようになったし前とは違う自分になる気がして少し怖かった。けれどウィンディの優しさは皆から貰った優しさと丁度比例しているみたいで心地よくて、その不安も、何もかもを溶かしていってくれるような気がした。


「俺は‥‥」
「わおん」
「サッカーがしたいんだ。皆と一緒に、そしてまた‥万全な状態で円堂たちと戦いたい。‥でも円堂たちともチームメイトとしてやってみたいし‥‥いや、サッカーがしたいんだ。ボール、蹴りたいなあ」


窓に飾られたサッカーボールは夕陽に照らされて光っていた。ウィンディは首を伸ばして俺の胸元へと寄り添う。温かくて、凄くあたたかい。


「ウィンディ、リハリビ手伝ってくれるか?」
「がう!」
「お前が居れば、辛いリハリビも乗り越えられそうだ」








「な、ウィンディ‥サッカー出来たりする?」
「わおん!」
「ホントか?うっし、じゃぁ明日な。約束」
「がうううう!」
「え、ちょ!かえんほうしゃはマズイって!」




「怪獣と君」さまに提出しました。素敵な企画に参加させていただき、ありがとうございました。


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