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七日後の朝のはなし


どろりと引きずりこまれるように落ちた眠りから、ゆっくりと浮上する。久しぶりに誰かと身体を重ねたせいか、はたまた溜まっていた欲を吐き出したせいか、目覚めは清々しいほど良い。いつもなら青峰より先に起き出して朝食を作っているはずの赤司は、今朝は隣で無防備な寝顔を晒している。すうっと、耳を欹てないと聞こえないような小さな寝息、いつものきりりとした表情はへにゃりと下がった眉のせいか、穏やかであどけない。童顔だとは思っていたが、幼子のように眠る姿に、昨晩自分が彼女にしたことを思い浮かべて少しの罪悪感に顔を顰めた。

赤司が青峰の家に来た日から毎晩、青峰は赤司に触れていた。男を知らない身体に自分の体温を馴染ませるように、じわりじわりと赤司に青峰を教え込んでいく。そうして時間をかけて慣らして、やっと彼女と繋がることができたのは昨日の夜のこと。頬を赤くしてころころ涙を零しながらしがみつき、必死に喘ぎながら時折青峰の名前を呼ぶ赤司の姿に年甲斐もなく興奮し、一度では止められず貪るように求めた。赤司は初めてだったというのに、手加減をしようと思う気持ちはいつのまにかぶっ飛んでいて、気づいた時には赤司は青峰の下でぐったりとベッドに身を預け、意識を飛ばしていた。大変申し訳ないです、はい。

すうすうと穏やかな寝息を立てる赤司は、未だ起きる気配がない。ふと出来心から赤司の前髪を掻き上げた青峰は、つるりと綺麗な額を曝す幼顔に小さく笑んだ。

「いつもこんな顔してりゃ可愛いのに」

小さく呟いた青峰は、けれどそれが自分の本心でないことを理解していた。大人しい赤司は愛らしいけれど、それではきっと、中学時代あの個性の塊達を率いることなど出来なかっただろうから。

「…ぅ、だいき…?」

舌ったらずな甘い声とともに、赤司がゆるゆると瞼を開く。覚醒しきっていないとろりと溶けた瞳が、ぼんやりと青峰を見つめた。

「わり、起こしたか」
「ん、へいき…それより腰、いたい」
「…調子乗ってすいませんでした」
「なぜあやまる?お前は契約に従っただけだろう?」

きょとん、と赤司は目を瞬かせる。心底理解していないような表情で。

「や、でも身体つれーんだろ?」
「じきに慣れる。大輝が毎晩がんばってくれたおかげで、それほど痛い思いもせずに済んだしな」

赤司の言葉に、青峰は自分の頬がじわじわと熱を帯びていくのを感じた。予期せぬ方向から爆撃してくるこの爆弾魔を、だれかなんとかして欲しい。

「…それに、最後の方は結構気持ちが良かった」

とん、っと青峰の胸に額を擦り付けるようにしてそう言った赤司は、よく見ると少し耳が赤かった。どうやら恥ずかしがっているらしい。その言葉とらしくない赤司の素直な行動に、青峰の心臓は早鐘を打つ。どくどくと鳴り響く自分の鼓動を誤魔化すようにそうかよ、と素っ気なく答えれば、くすくすと赤司が笑った。

恋愛感情がないにも関わらず、赤司に対して抱くこの感情はなんなのだろう。大切にしたいと思う、けれど、性欲の対象にもなる。赤司相手じゃなかったら、たとえ相手が処女であっても強引に事を進めていた自信が青峰にはあった。つまり、青峰にとって赤司はトクベツなのだった。その「トクベツ」の意味がうまく咀嚼できないだけで。泣いていたらどうしたんだと慌ててしまうだろうし、物憂げな表情をしていたら手を伸べて引っ張り上げてやりたくなる。それは幼馴染である桃井に抱く感情と似て、全く異なるものだった。だって仮に桃井が同じ状況になったとしても(万に一つもありえないが)、青峰は彼女を抱かない自信がある。

「あーもうわかんね…」

苛立ちをぶつけるように、青峰は自分の髪をぐしゃぐしゃと掻き回した。どうしたんだ、と赤司が目だけで問うてくる。なんでもねーよ、と囁くように告げて、そっと抱き寄せた身体は小さい。すっぽりと腕に収めた体温は、不思議と安心を生んだ。

抱きたいと思う時点で、友人の枠からは外れている。けれど、恋愛感情を抱いているのかといえば、その先の自分の感情が未知数すぎる。

もぞもぞと自分の居心地のいい場所を探すように身じろぎする赤司の背を撫でながら、青峰は思考を放り投げるように目を閉じた。

逃げるようで少しむかつくが、今のまま考えていても、答えなんて生まれないような気がして。


2012/09/01







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