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翌朝のはなし


くあ、っと小さな欠伸をして起き上がる。ぐぐぐっと大きく一度伸びをしてから、青峰はベッドを降りた。隣に寝ていたはずの赤司はもう寝室にはいなかった。どこ行ったんだあいつ、とまだ覚醒しきらない頭で考えながらリビングダイニングに向かうと、キッチンに向かっている赤い髪の女の子が目に留まる。ああ、そういえば家事はあいつがやるっていってたっけと今更思い出しながら、青峰はその背中に声をかけた。

「あー…はよ」
「おはよう大輝。和食にしたかったんだが冷蔵庫に味噌がなかった。今朝はパンでもいいか?」
「いーよ。つか俺基本料理しねーから味噌とか調味料とか多分あんまねーと思う」
「わかった、それは今日買ってこよう」

適度なサイズに千切られたレタスの上に、綺麗にスライスされたきゅうりが几帳面に並べられ、その隣にはハムエッグ。まるで喫茶店のモーニングプレートのようなその皿を手渡され、席につけと促される。特に反論もなくその言葉に従い、青峰が炬燵に足を突っ込んだ瞬間、見計らったようなタイミングでトースターがチン、と鳴った。

「はい、これ」
「ん。いただきます」
「うん」
「…お前食べねーの?」
「朝はあまり食欲がわかなくてね」
「へえ」

そういえば中学のころの部活の合宿のときも、朝はあまり食べていなかったような気がする。テツにはやたらと「食べろ」というくせに自分はほとんど手をつけずに紫原にあげてしまっていて、「ずるいです」とテツが拗ねていたっけ。

「お前さ、身体平気か?」
「…うん」

トーストを齧りながら尋ねると、赤司の纏う空気が少しだけ鋭くなった。不服そうにこちらを見上げる瞳に、めんどくせーなと青峰は思う。

赤司とは昨晩身体を重ねた。といっても最後まではいっていない。指一本まで。そこで赤司が痛がって泣き出してしまったから、青峰はそれ以上進めなくなった。いや、正確には赤司は強引に進んでくれて構わないと言ったのだ。けれど怖がる彼女を強引にどうこうすることなんて、青峰にはできなかった。驚いたことに、赤司は処女だったのである。

契約的な恋人の条件に身体を好きにしていい、だなんて生意気なものをぶっこんできたくせに、その実触れてみれば反応は初々しく、どうしたらいいかわからないと怖がってしがみつく身体は稚く男なんてまるで知らなかった。

「…なんで最後までしなかった?」
「お前が痛いって言ったから」
「昔のお前だったらそんなの無視して事に及んでいただろうに」
「昔っていつのこと指してんだよ。俺だって少しは成長するっつーの」

正直にいえば、自分の下で恐怖に竦み上がる赤司を見て、欲情しなかったわけではない。けれど青峰の中の赤司のイメージはやはり無理に侵してはいけない聖域のようなもので、だからこそあと一歩の理性が青峰を踏みとどまらせた。

「…契約違反をしたみたいでなんか嫌だ」

むうっと不機嫌な顔で言う赤司に、泣いてたくせによく言うよと言ってやりたい気持ちになったが、ここで彼女の期限をこれ以上損ねると面倒なことになりそうなので黙っておく。

「別に少しずつ慣らしてきゃいんじゃね」
「……、でも、」
「つか彼氏だったら彼女が平気になるまで我慢してやんのが普通じゃねーの?」

青峰の言葉に、赤司が目をまん丸に見開いた。幼い顔立ちがさらに子供っぽくなる。ぽかん、という効果音が似合いそうなほどの顔つきで青峰を見つめていた赤司だったが、やがてじわじわと頬を染めると、嘘みたいだ、と小さく呟いた。

「大輝、お前何時の間にそんないい男になったんだ…?」

心底驚いた様子で尋ねてくるから、青峰は少し恥ずかしくなって「うっせーな」と乱暴に返事を返す。

俺がいい男だってことは、俺が一番よく知ってんだよ、ばぁか。








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