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母親とは偉大な生き物


設定:父―真田弦一郎(警察官) 母―真田精市 長女―真田蓮二(高2) 次女―真田比呂(中2) 長男―真田雅治(中2) 次男―真田ブン太(小2) 三男―真田赤也(幼稚舎年長)



◎雅治視点

ぎゃんっと子ども特有の甲高い声が響いて、俺は心地よい眠りから目覚めることを強要された。暖かい休日の午後、ぼんやりとリビングのソファに寝そべっていたら、何時の間にかうたた寝してしまっていたらしい。覚醒の原因となった人間目覚ましを探せば、ダイニングで末の弟の赤也がぎゃあぎゃあ泣き喚いていた。そのすぐそばでは、ブン太が平然と菓子を頬張っている。その様子から察するに、どうやら赤也の菓子をブン太が食べてしまったようだった。こういう時、比呂や蓮二姉さんがいたら上手く宥めてくれるのだが、生憎ふたりとも留守にしている。子どもが苦手な俺はこのちいさな弟達を少々苦手としていた。

蓮二姉さんは昔から大人びて落ち着いた賢い子どもだった。比呂も同様に聞き分けがよかった。俺も多少のイタズラはしたが、駄々を捏ねて両親を困らせたような記憶はない。だからこそ、およそ子どもらしいこのちいさな弟達とどう接していいかわからないのだと、俺は推測している。どうしたらいいかわからず、ぼうっと成り行きを見守っていたら、俺が起きたことに気付いた赤也が涙と鼻水で顔をグシャグシャにしながら、頼りなげな足取りでこちらへ寄ってきた。

「お兄ちゃぁ…」

ちいさな、ちいさな声。
自分よりもずっと弱い存在だと、思い知らされた気がした。反射的に、腕が伸びる。母親譲りの癖っ毛をゆるく撫でてやれば、泣いたカラスはもう笑顔になった。


「あれ、珍しいね。雅治が赤也の相手してるなんて」

しばらくそうしていたら、庭仕事をしていた母さんがひょっこり戻ってきた。

「ブンちゃんにお菓子取られたらしくての、さっきまでぎゃん泣き」
「ああ、それで」

母さんはくすりと笑うと、やばいという顔で黙り込んだブン太のそばに行き、目線を合わせるようにしてしゃがみ込んだ。

「ブン太、人のものを勝手に取るのはいけないことだよ。ブン太はお腹が空いていたのかもしれないけど、おやつを食べたいと思っていたのは赤也もおんなじだよね。ブン太は赤也よりもおっきいんだから、取り合ったら赤也が負けちゃうのはあたりまえだ。お母さん、それは弱いものいじめだと思うなあ。自分より弱いものには優しくしなさいって、お父さんもいつも言ってるでしょう?」

口調はあくまでも穏やかに。だけどブン太の悪いところを語りかけるように気づかせる。父さんの昭和チックな鉄拳制裁よりも、母さんのこれは精神的にぐさりと刺さる。ブン太は母さんの言葉を正しく理解したようだった。その証拠に、赤也のそばに寄ってきて、ごめんと小さな謝罪。それに対し、赤也もいいよ、と頷いた。

「ふたりともいい子だね」

母さんはそんなちびっ子達ににこにこ微笑みかけると、ふたりをぎゅうっと抱き締めた。きゃらきゃらと楽し気な声が上がる。俺が躊躇したいろんなことを、母さんはさらりとやってのける。このひとは家族ひとりひとりをよく理解していて、その上でいけないことは注意し、ある時は背中を押し、いつだって見ているからねと安心を与えてくれる。だからこそ家族はみんな母さんが大好きで仕方がない。

「雅治も、ありがとう」

不意打ちの言葉に、少しだけ顔が赤くなった。あぁ、もう、やっぱり敵わない。

母親とはなんと偉大なものか。






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