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大好きな貴女へ


なんでも器用にこなす貴女を


正直、羨ましいと思います。


でも


だからこそ、そんなふうに悩む貴女が


可愛くて、愛しくて


何かしてあげたいと思うんです。




「テツヤ、何をそんなに見ている?」
「いえ、少しハネているなと思っただけです。」
「だからといって、そんなに見なくてもいいでしょう。」
「すみません。」


帰り道、少し低い位置にある赤司さんの髪を何気無しに見やる。
夏の蒸し暑い風が、彼女の綺麗な赤毛を揺らめかせた。
サラリ、と元に戻るそれは、彼女を象徴するものの一つだと思います。
だからこそ、右肩のあたりでピョンとハネている一房が、彼女を完璧から遠ざけているように思えるんです。


「まだ気になるの?」
「少しですけど。
耳にかけるのはどうですか?」
「……。」
「赤司さん、もしかして前みたいな事をされるのが嫌で、耳は出したくないんですか?」
「テツヤ、ふざけた事を言ってると殺すよ。」
「はっきりと否定しないところを見ると、どうやら図星のようですね。」


言い返すと睨まれました。
怖いです。
そろそろ大人しくしましょうか。

けれど、嫌だと言われれば見たくなります。
見たいです。
シンプルにピンだけでもいいですけど、編み込みとか可愛いと思います。
ボブくらいの長さですから、内巻きでもウェーブでも似合いそうですね。


「赤司さん。」
「なに?」
「先程からピン片手にボー、としてますね。
やはり気にしているんじゃないんですか?」
「気にしてない。」
「でも今、慌ててピンを戻しましたよね?」
「テツヤ。」
「はい?」
「帰るよ。」
「え、」


せっかくの放課後デートだったんですけど…。
仕方ないですね。
というか、少しからかいすぎました。


「(でも、)」


好きな人が気に入った物を、易々と見逃すなんて出来ませんよね。
それで可愛くなるなら、なおさら。




「赤司さん、」
「何これ?」
「たまにはイメチェンしてみてはいかがと思ったので。」
「そんな理由でプレゼント?」
「あと、赤司さんが気に入っていたみたいなので。」
「…そんなわけないでしょ。
ただ適当に手に取って見てただけなんだから。
だいたい、なんで私がつけなきゃいけないの。」
「似合うと思うからです。」
「な、」
「駄目ですか?」
「…ッ」


顔を赤くしながら俯く赤司さんが可愛くて、抵抗されないのをいい事に、ピンをそっ、とつけた。


「やっぱり、赤司さんは可愛いです。」
「お世辞はやめて。」
「本心です。

だから、あまり他の人に見せないでくださいね。」
「っ」


視界の端で真新しく耀くピンを少し満足そうに眺めながら、愛しい彼女を強く、強く抱き締めた。





(ありったけの想いを込めてプレゼントします)







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