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Let me love you2


他人に厳しくて、けれどその数倍自分に厳しくて。


もっと力を抜いていいんだと、みんなに頼ったっていいんだと、そう言ってあげたくなる。


彼女の背中は小さくてあんなに頼りなげなのに、何でもないような顔であれもこれも一人で背負い込んで、誰にも頼らなくたって平気だよって、いつだって僕らよりも前を行くから、誰も彼女の強がりに気づけない。正面から見ることができたらきっと、泣きそうに歪んだ切ない表情にも気づけたのに、ね。



Let me love you. 2


朝練に一番早く来るのは、鍵を持っているマネージャーである。桃井さんは青峰くんの寝坊に付き合わされて遅刻する可能性が高く、消去法で大抵の場合、一番はじめに部室に来るのは赤司さんだった。

「おはようございます、赤司さん」
「おはよう黒子。もう部室は開けてあるよ」

挨拶をすれば少しだけ目を細めて笑う。この愛想笑いとは違うけれどどこか違和感のある笑顔を、赤司さんはよく使う。何かに警戒するような、自分の奥深いところを見せまいとするような、そんな頑なさがそこにはあった。

「じゃあ僕は行くから」

そう言って僕に背を向ける、彼女の手にはジャグが握られていた。

「あの、赤司さん!」
「…なにかな?」
「いつも朝練の準備、ありがとうございます」
「それは、桃井に言ってあげなよ。あの子は放課後いつだって君たちのために尽くしているんだからね」
「もちろん桃井さんにも感謝しています。でも赤司さんは、本当はこういうマネージャー業をするためにここにいるわけではないでしょう?」
「…それでも、マネージャーって名前に変わりはないからね」
「そうですね。でも、言いたかったんです。いつもありがとうございます」

赤司さんは僕の言葉に眼をぱちぱちと何度も瞬かせ、それから、ふうわりと笑った。それは先ほどまで向けられていたどこか居心地の悪い笑みではなく、もっとやらかくてまあるいもの。

「…ありがとう」

大輪の花が咲いたみたいに、ぶわりと景色が鮮やかになっていくような気がした。ほんの少しだけ拍子抜け。女王様染みた威圧感と圧倒的な存在感、どうあがいても勝てないような有能さに少しだけ構えてしまっていたけれど、なんのことはない、赤司さんはちょっぴり気難しくて扱いづらいだけで、本当は笑うととても可憐な、女の子なのだった。


けれどその数分後、やっぱり赤司さんのことがよくわからなくなる。青峰くんが予想通り少しだけ遅刻してきて、始まった朝練。いつものようにコート全体を見渡せる位置に陣取り、あれやこれやと指示を飛ばしている赤司さんの顔色が、明らかに悪かった。なんというか、青白い。紫原くんも気が付いたようで、心配そうにちらちらと何度も彼女の方を見やっている。そうこうしているうちに、桃井さんもその様子に気が付いた。

「征ちゃん、だいじょうぶ?顔色悪いよ…?」
「平気だ」
「でも…」

明らかに体調の悪そうな彼女を気遣ってか、桃井さんは赤司さんの額に手を当てようとした。しかしそれは、触れる前に赤司さんの手によってはじかれてしまう。桃井さんが、びっくりしたように右手を庇った。けれどそれよりも、赤司さんの方が傷ついたような表情をしていた。

「ごめん、でも本当に平気だから」

もう構わないでと、全身から言葉が滲み出ているような気がした。そうやって全身で拒絶されてしまえば、誰も何も言えなくなる。結局赤司さんはそのまま、朝練が終わるまでずっとそこにいた。顔色はどれだけ時間が経っても、真っ白なままだった。



そして心配したとおり、彼女は放課後の部活でぶっ倒れることとなる。あんなに体調が悪そうだったくせに、練習にはいつも通り参加して。やめておけばいいのに、いつものように男に混ざってボールを追いかけて。そうしてふと気が付いた時には、ぱったりと倒れてしまっていたのだ。

「征ちゃん!」

桃井さんの泣き出しそうな悲鳴が体育館に響く。傾いた身体がスロー再生のようにどさりと床に落ちる。鈍い音が、トラウマになりそうだと思った。







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