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夏の夜は柔くあまい*


ぐらぐらと、茹だるような暑さに、常日頃からよく回る赤司の思考は完全に奪われていた。あつい。脳がうまく働かない。あつい、暑い、熱い。身体に感じる自分以外の体温が、夏の締め切った室内に籠る熱気が、赤司の思考を妨げ、少しずつ理性を奪ってゆく。せめてもう少し体感温度を低くしたいとエアコンのリモコンに手を伸ばしたのだが、それを掴むことは許されず、後ろから伸びてきた手にあっけなく捕まり、シーツへ押さえつけられた。その反動で大きく跳ねたベッドから床へリモコンが落ち、赤司はいよいよ何もできなくなる。

「か、がみ…あ、あつい、あつ、ぅあっあ、やっ…」
「俺もあちいけどなに?」
「なにじゃなくて、あ…んんっ、ん、えあこ、えあ、あーっ」

なに、じゃない。暑いならエアコンをつけろ。そう言いたかったのに、まともに言葉も紡がせてもらえない。火神の指が奥をぐりりと抉ったことで、みっともないくらい甲高い声が零れて止まらない。やめて欲しくて何度も首を振った、けれどそれはシーツの上で髪が躍るだけで、火神に対しては何の牽制にもならなかった。

声を抑えることは、すでに諦めていた。最初こそどうにかして声を出さないようにできないかといつも努力するのだが、大体二本ほど指が侵入してきたところで我慢ができなくなる。何度も赤司を抱いて、すっかり赤司の好きな場所を知り尽くした指の動きに、耐えられるわけがなかった。

「ふぁっあ、や、も、やだあ…っ」
「嫌じゃねーだろ、うそつき」
「う、そじゃな、ないぃっ、ぃあ、あ」

ぼろぼろと落ちる涙がまた熱くて、赤司は両手で顔を覆った。目元を乱暴に指で拭うように何度も擦っていたら、赤司を苛める手とは反対の手に引きはがされ、宥めるような仕草で何度も目元を舐められる。母猫が子猫を毛づくろいするような優しさに一瞬うっとりと身を任せそうになった赤司は、けれど次の瞬間一際奥に押し込まれた指の動きに善がり泣くことになった。

「うあっあ!あーっ…ひっ、も、やめ…っく、」
「ん、もういい頃か…?」
「は、なに言って、んく、ふ、ふぇ、ぁ…」

零れ落ちる涙はとどまることを知らず、赤司はしゃくりあげるように必死に呼吸をした。ひくっと喉が震えるたび、飲み込めなかった唾液が細い糸のようになって零れる。ぐったりとシーツに身を預ける赤司の傍で手早く避妊具を身に着けた火神は、赤司の口から伝う唾液を先程のようにぺろりと舐めとったあと、赤司の額に自分の額をくっつけ、伺うようにその目を覗き込んだ。

「いいか?」

ここまで好き勝手しておいていまさら何を言うのか、と赤司はため息を吐きたくなる。火神はいつもそうだった。こちらが何度いやだやめてと頼んでも決してやめてはくれないくせに、いざ本番となるとこうしていちいちお伺いを立ててくる。いっそ最後まで好き勝手してくれたら後から怒ることも可能なのに、最後の最後で決定権を赤司に委ねるものだから、拒絶なんてできるはずがなかった。

「…いいよ。きて」

重たく感じる腕を持ち上げて、伸ばした指先で撫ぜるように火神の髪を乱す。それが合図だった。

「ーーっ、っ、ぁあ…!」

狭い体内を掻き分けるように押し入ってきた指とは比べ物にならないくらいの質量に、赤司は声も出せず、はくはくと酸素を求めて忙しなく呼吸を繰り返した。無意識に身体が逃げを打つ。思わず身体を引くように動いた赤司の腰を逃がさないとばかりに引っ掴み、火神は自身を根元まで押し込んだ。赤司の眉間にきゅっとしわが寄る。両手はぎゅうっとシーツを掴み、小刻みに震えていた。

「痛いか…?」

尋ねれば、赤司はふるふると首を振る。あれだけ丹念に愛撫をされたあとで、痛いわけがなかった。

「動くぞ」
「ん、」

こくり、と赤司が頷いたのを確認してから、ゆっくりと腰を送る。最初は緩やかな動きで。赤司が快感だけを拾えるように。

「ん、ん…あっ、かがみ、」
「ん?」
「じらすな…っ」
「っ、お前…!くそっ…」

火神に比べれば細く白い、けれどしっかりと鍛えられた赤司の両腕が、火神の背に回った。それと同時に裡をぎゅうっと締め付けられ、火神は吐精しそうな気持ち良さを必死に堪えることとなる。焦らすなと火神を見上げる瞳には情欲の色が見え、小さな唇から覗く舌はちらりと誘うように赤い。

「あとで怒るな、よっ!」
「うあっや…は、ゃう、かがみっ、やあっあ!」
「今度はなんだよ」
「キス…っ、キスも、んあっ、ね…かがみぃ…っ」
「だああ!お前もう黙れ…!!」
「ん、んくっ…んん…」

塞ぐように口づけたら、赤司の表情がふにゃりと柔らかくなる。こんなちいさなことで、吃驚するほど幸せそうな顔をするのだ。気持ちが良いとか、そういう身体で感じること以前に、もうこれだけで、同性同士が身体を重ねる意味が分かったような気がした。

「ふぁ、んっ…んー…!」
「…っく、…」

キスをしたまま奥をぐりぐりと抉るように腰を使ったら、赤司はころころと大粒の涙を零しながら果てた。きゅうっと締めつけられる感覚に、火神も抗わずに精を吐き出す。ゴム越しにでも熱い液体の感覚を感じ、赤司はふるりと身体を震わせた。

「かがみ、」

とろりと蕩けたオッドアイが、気怠げに火神を見上げる。上気した頬に自分のそれをくっつけて、火神はなんだよ、と囁くように尋ねた。

「すき…」

紡がれた言葉に、俺も、と返したけれど、すぐにすうっと眠りに落ちた赤司にははたして聞こえていたのだろうか。

「ま、覚えてねーなら起きた時に言えばいっか」

火神は一人頷くと、汚れてしまった身体を清めてやるために、タオルを取りにベッドから起きあがったのだった。






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