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寂しい過去としあわせな今のはなし。


結論から言えば、あの猫人間(仮)は家で引き取ることになった。というのも、赤司があの子猫のことを思いのほか気に入ってしまったのである。猫人間(仮)は赤司に因んで「征(せい)」と名付けられた。

征は見た目や振る舞いこそ赤司とそっくりのように思えるが、実際は大きな違いがあった。それは、表情が豊かなことである。赤司より幾分幼い顔立ちで、いろんなことに驚いたり喜んだり、無邪気な笑みを浮かべたり。そんな表情を見るたびに、俺はとても嬉しくなった。

「あの子は僕の欠けた部分なのかもしれないね」

床の上に敷かれたラグの上に寝っころがり、小さな指でひとつひとつピースをつまんではぱちりとパズル板にはめ込んでいく征を見つめながら、赤司は以前よりやらかい表情で笑んだ。

「僕は小さい頃、あまり甘やかされた記憶がないから…だから、ああして征が年相応の反応をしているのを見ると、なんかちょっと、安心する」

赤司は征にとても甘い。もちろん悪いことをしたら怒るけれど、征がいい子にしていれば、たぶん俺よりもあの子猫を甘やかしているように思う。

「僕があの頃して欲しかったことをやっているだけなんだけどね。あの子には迷惑なことかもしれない」
「迷惑だったらあんな顔しねーだろ」
「そう、かな。うん」

珍しく自信なさげに頷くから、前髪の隙間から覗く白い額にぴんっとデコピンをかましてやった。

赤司の家のことだとか、幼少期のことだとかを、俺はよく知らない。赤司はそれについて話したがらないし、もしも思い出したくないようなことだとしたら、それを無理に掘り返すのはよくないことだと思っている。だから俺は、それについて赤司に話すよう強要したりしないし、逆にもしも彼が話したいと思った時にはきちんと受け止めてやりたいと思っている。けれど時々思い出したように出てくる彼の言葉たちを繋いだら、幼少期が幸せではなかったことはなんとなく察してしまえる。そういうときの赤司はとても寂しそうで、俺はそんな姿を見るたびに、なにも力になれない自分が歯がゆくて仕方なかった。

「いいんじゃね、甘やかせば。お前とおんなじ顔した征があーやって楽しそうにしてんのは、俺も嬉しいし」
「……」
「子どもを可愛がってるだけなのに、余計な罪悪感とかいらねーだろ」
「…そうだね」

赤司はソファのうえできゅっと膝を抱え、顔を隠すように頭をくっつけた。俺はそんな赤司の肩に腕を回し、小さくなった身体を自分に凭れかかるように寄せる。

「あーっ、たいが!せーじゅーろーのこと泣かしたな!」

自分のすぐそばで起きた異変にいち早く気が付いた征が、こちらを振り返って叫ぶ。むうっと頬を膨らませ、しっぽと耳の毛を逆立てて。それだけならとても愛らしいのだけれど、その手にはこども用の小さなハサミが握られていた。ちょっとちょっと、物騒ですよ子猫さん。

「泣かしてねえよ」
「うそだ!せーじゅーろーちっちゃくなってるじゃないか!たいがのばかっ、せーじゅーろー泣かしたらおやころなんだからな!!」
「おやころってつまり俺を殺すってことだろ、物騒すぎるわ!」
「ふんっ」
「こら征、その言葉遣いはやめなさいっていっただろう?」
「あ、せーじゅーろー!」

膨れっ面だった征は、赤司が顔を上げた瞬間恐ろしいほどの変わり身の早さでころりと笑顔になった。ぴょんっ、とジャンプして赤司の上に乗りあがり、甘えるようにすり寄る姿はまさに親子のようで、とてもかわいい。…右手のハサミがなければ。

「おやころなんて、次に火神に言ったら許さないよ」
「…ごめんなさい」

初対面でそれを言ってあまつさえハサミを突き付けてきた奴が何を言うか、と思ったが、今後のためにも黙っておくことにした。ここで赤司がきっちり教育してくれなかったら、近い将来危険人物が二人に増えるような予感がしたので。






* * *
このあと二人は普通に子育てしていきます。にゃかしくんはキセキとか洛山とか誠凛とかに甘やかされて、しあわせに暮らしていきます。

黄瀬くんが時々子ども用の衣装(買い取り)を持って現れたり、黒子くんがにゃかしくんを一日預かってみたり、熱を出したにゃかしくんにパニクった赤司くんが緑間くんに半泣きで電話したり、夏にみんなで避暑地に出かけて青峰くんとザリガニ釣ったりセミ捕りしたりします。

そんなお話でした。






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