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黒子さん家の嫁と娘。


黒赤♀が結婚してて子どもがいます。
娘:夏織(かおり)ちゃん
小学生です。可愛い盛り。





「おかあさん!みてー!!」

ダダダダッ、と廊下を走る騒がしい音とともに、リビングに飛び込んできた小さないきもの。水色の長く柔らかな髪はおとうさん譲り、くるんとまあるい猫みたいな瞳はおかあさん譲り。目に入れても痛くないくらい文句なしに愛らしいその生き物は、夏織という。僕とテツヤの愛娘である。ちいさな両手でデジタルカメラを握り、こちらに差し出しては褒めてと言わんばかりに見上げる子どもがどうにもいとおしくて抱きしめた。くしゃりと髪を撫でると、シャンプーと土とお日様と、夏の匂い。それから少しだけ、汗の匂い。

「たくさん撮れた?」
「うん!!!」

デジタルカメラを受け取りながら尋ねたら、夏織は満面の笑みで頷いた。メモリーカードを抜き、パソコンに差し込みながら、僕はもう一度ゆるりと夏織の頭を撫でた。

「夏織、汗をかいているからシャワーを浴びておいで。このままだと風邪をひくよ」
「かおりがシャワーしたら、おしゃしん、プリントしてくれる?」
「うん、夏織がシャワー終わる頃には全部印刷できると思うよ」
「やったあ!」

ころころと笑顔を浮かべる、この表情の豊かさにはいつも舌を巻く。僕もテツヤもあまり感情を顔に出す方ではないから、こうして子ども然として感情をありのままに見せてくれるのは親としてとても嬉しい。

ぴゃーっとバスルームに駆けていく夏の申し子を見送りながら、そういえばテツヤの姿がないことに気づく。夏織の夏休みの自由研究を手伝うんです、って、重たい植物図鑑を片手に張り切って出て行ったはずなのだが。はて、と首を傾げたところで、がちゃん、と乱暴に玄関の扉が開く音がした。プリンターに印刷指示を送ってから玄関に向かうと、何となく予想はできていたが、テツヤがぐったりと床に倒れていた。

「おかえりテツヤ、だいぶお疲れのようだね」
「ただいま征さん、正直子どもの体力をなめ切っていました…外、暑いです…」
「あれは生命エネルギーの塊だからね」

ぐったりと突っ伏すテツヤを団扇で煽いでやりながら笑う。床に放られた植物図鑑には、いくつかの付箋が貼られていた。

「研究は上手くいったみたいだね」
「ええ、この周辺の植物はばっちりチェックしました。あとは夏織のまとめ能力次第です」
「大丈夫だよ、あの子なら」

バスルームの方から、僕を呼ぶ声が聞こえる。おかあさーん、と目一杯の大声で叫びながら、夏織が廊下を走る音がした。

「おかあさん、いたー!ねー、かおりのおしゃしんはー?」

どんっと突進してくる小さな身体を受け止める。期待に満ちた目はキラキラ輝いて、僕は純粋なその瞳に魅了されるように笑んだ。

「もう出来てるんじゃないかな、一緒に見に行こうか?」
「うん!」
「テツヤも、シャワー空いたから浴びてきなよ」
「…はい」
「おとうさんも早くきてね!かおりのおしゃしんいっしょに見ようね」
「マッハで浴びてきます」

さっきまで倒れ伏していたのが嘘のように素早い動きで起きあがる。バスルームへと消えていく父親を目で追いかけていた夏織が、おとうさんへんなのー、と笑った。

「おとうさんはちょっと親馬鹿を拗らせてるんだよ。そっとしておいてあげなさい」
「ふうん?」

おおよそ理解していないような表情で、けれどこっくりと頷く。夏織のこういう素直なところは、本当に自分に似なくてよかったと思う。プリンターの前で正座をして印刷されてくる写真を眺める夏織を見守りながら、そっと麦茶を煽った。カラン、氷が落ちる音がする。


夏の始まり。そんな、しあわせな一家族のおはなし。


* * *

夏に生まれたから夏織ちゃん。安易かなー。
黒赤はとても穏やかな家庭を築きそうです。






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