mobile text | ナノ




緑間家が襲来するはなし。


このお話には緑高ファミリーが出てきます。高尾くんは女の子で子供もいます。詳しい設定は以下に記載。

緑間和菜(旧姓 高尾和菜)
緑間さん家のお嫁さん。専業主婦。一児の母です。割と肝っ玉母ちゃん、頼りになる女No.1。赤司ちゃんとはそれなりに仲良し。緑間くんとはデキ婚の学生婚。妊娠発覚時にあれこれあって、キセキを巻き込んで大騒動に発展したのだが、それはまた別の話。

緑間和真 3歳 男の子
やんちゃ盛り。見た目は眼鏡のない緑間くんだけど中身はまんま高尾さん。びっくりするほど行動力がある。やんちゃ盛りなのでお父さんは少々押され気味。

大丈夫な方のみどうぞ↓





結婚準備の合間、見計らったようなタイミングで緑間一家が遊びにきた。

「和真ももう三歳かあ…」
「来年は幼稚園だからなー、今探してんだけど」
「なかなかいいところが見つからないのだよ…」

テーブルにはコーヒーが三つ。俺の向かいで、緑間と和菜は並んで苦笑する。やんちゃ盛りな彼らの息子、和真は、今は窓の近くの床にべったり座り込んで、クレヨンで一心不乱に絵を描いている。その様子を、寝転びながら征が見つめていた。

「赤司とはうまくやっているのか?」

緑間は俺と会うと必ずそう尋ねてくる。まるで過保護な父親が娘の色恋を心配するように、いつも同じ表情で同じ言葉を紡ぐ。

「真ちゃん、もう赤司じゃないだろー?」
「ああ、そうか…」
「心配しなくても上手くいってる。ちゃんと出来てるかはわかんねーけど、一応もう夫婦だしな」

夫婦、そう表現したら、緑間は少しだけ寂しそうな顔をした。こういうとき、キセキの世代と呼ばれる奴らのなんとも表現しがたい絆のようなものを再認識させられる。だってこの顔は全く同じだ。緑間が高尾和菜と結婚を決めたと知ったときの征の表情と、おんなじ。

緑間と和菜は俗に言うデキ婚というやつで、しかも学生婚だった。はじめに和菜が妊娠したと聞いたとき、「…緑間っちがやらかした?!青峰っちじゃなくて?!」と黄瀬が名言を吐いたのは未だに記憶に新しい。ぶっちゃけ俺も同じ気持ちだった。緑間真太郎という男はいろいろと面倒くさい人間ではあるが、とにかく真面目で誠実、なにごとにも備えを忘れない。そんな男がまさか避妊を怠るはずもなく、はじめは冗談だろと思ったのだ。結果的にやっぱり避妊はきちんとしていたらしいのだが、それでも100%防げるわけではないわけで、和菜の腹には新しい命がやってきたわけで。

問題はそこからだった。詳しくは長くなるので省略するが、緑間と和菜の恋は縺れに縺れた。最終的には結婚する、子どもも産む、ということで無事に収束したのだが、そこに辿り着くまでにいろいろ、いろいろあった。きっとあの頃のことは、緑間家の黒歴史の中でダントツの一位だと思う。和菜ではなく、主に緑間が。

「和真、これはなあに?」
「これはねー、パパとママ!」
「じゃあ真ん中にいるのは和真?」
「うん!でね、赤いのがせーちゃん!」
「僕?」
「うん!」

リビングからたどたどしい会話が聞こえる。征は子どもが苦手だ。嫌いではないけれど、ほぼ100%感覚で動いている小さな存在を、どう扱えばいいかわからないらしい。征は基本的にあのおっそろしいほど回転の速い頭で瞬時に論理を組み立てて話す。だからいざ子どもを目の前にしたときに、なにを話したらいいかわからないのだ。

「ああいうちょっと困ってる征ちゃんってレアだよねー。流石私と真ちゃんの息子!すごい!」

和菜はからから笑いながら、けれどどこか慈愛に満ちたあたたかい目で二人を見ている。おかあさんの目だ、と思った。今の征には絶対に出来ない目だ。もっといろんな苦しいこと、辛いことを知っている目。だけど同じくらい幸せなこと、嬉しいことも知っている。それは、独身だった頃とは違う。俺たちよりももっといろいろな責任を背負っている。だけどそれは彼らにとってのしあわせなのだ。

「また遊びにくるから」

帰り際、和菜は征の手を握ってそう言った。すぐ後ろでは、緑間がまだ帰りたくないとごねて暴れる和真を抱えて奮闘していた。あれは大変だな、緑間。見てるだけで腰にきそうだ。

結局和真を抱き上げることは諦めたらしい。和真の右手を和菜が握って、その隣に緑間が寄り添って。帰っていく姿は数年前にあんなにごたついたのが嘘のように優しい。

「僕たちも、いつかあんな風になるんだろうか」

呟いた征の声は小さくて、まるで何かを怖がるみたいな。

「なんだよ、もしかしてマリッジブルーってやつか?」
「ちがっ……いや、もしかしたらそうなのかもしれない」

珍しく途中で反論をやめた征は、むむむっと眉間にシワを寄せて考え込む素振りを見せた。ああ、また変な方向に考える悪い癖が出たな。そう思った俺は、そのやたら賢い頭がへんてこな答えを弾き出す前に、小さな手を握ってやった。

「別にあいつらみたいにならなくても、俺たちは俺たちだろ」

言い聞かせるように言ったその言葉に、征はなにも答えずにただ俺の手を握り返してきた。




結婚式まであと少し。俺たちはまた一つ何かを学ぶ。






「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -