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everlasting child3


まだ夏でもないのに、やけに寝苦しい。というか、重い。身体が動かない。


耳元を生暖かい空気が過ぎる。なんだこれは、まさか妖怪か…?


いや、でもこの家はあいつらが守ってくれているはずだ。そう簡単に妖怪は侵入できない、はず。


そう信じて恐る恐る目を開ける。目に映ったのは、やっぱり妖怪だった。だったのだが。


「…なにをしているんだ大輝」
「は?夜這いだけど?」
「しね」


夜襲をかけてきたのは身内のほうでした。なんということでしょう。


everlasting child

ぎりり、と押さえつけられた両手は少しも動かない。全身で圧し掛かられて、重さに顔が歪む。もともとこの家の中でも、大輝は本来の姿では一番大きく、力も強いのだ。人間である僕が適うはずがない。

「退け大輝。今なら許してやる」
「やだね」
「テツヤを呼ぶぞ」
「んなもん呼ばれる前に襲うに決まってんだろ」
「なっ、テ、テツ…っん、んんっ」

ぺろりと舌なめずりをして、噛み付くように唇に喰らいついてくる。テツヤを呼ぶ声は途中で途切れ、それどころか呼ぼうとしたせいで開いていた唇からあっけなく彼の舌の侵入を許してしまった。

「んーっ!んっんっ、ふぁ、や、んんぅ…っ」
「…っは、やっぱエロいわお前」

好き勝手に口内を蹂躙され、挙句の果てにこの言葉である。必死に呼吸を整えながら睨み付けてやったら、大輝は厭らしい笑みを浮かべ、再び顔を近づけて迫ってきた。

「っはな、れろっ!やっ、ふ…ふぅっ、ん゛っ!」
「いっ…てええええええ!!!」
「っ、は…はあっ、調子に乗るな大輝…」
「赤司…てめえ…っ」

二回目は一度目とは違い、こちらにも迎え撃つ体制ができている。先ほどと同じようにこちらの気持ちなどお構いなしに侵入してきた彼の舌を、僕は、思い切り噛んだ。途端に痛みに涙目になった大輝が僕から離れ、口を手で押さえて蹲る。それを見て、妖怪にも痛覚があるんだなあと妙に感心していたら、ぎりりと鋭い眼光でこちらを睨み付けてくる大輝と目が合った。これは本格的にピンチである。何せ大輝はキレると手がつけられないので。

だから僕は、深夜という時間帯にも構わず、思い切り叫んだ。

「テツヤーッ!!!!!!!」





「…青峰くんは、どうしてこういうことばかりするんですか」
「……」
「赤司くんに力を貰いたいなら、黄瀬くんのようにきちんと頼めばいいでしょう。毎度毎度、学習しない…君はばかなんですか」
「…だってよ、ちょっとくらい抵抗してくれるほうが燃えるじゃん」
「…なにか言いましたか?」
「イエ、ナンデモゴザイマセン」

テツヤの絶対零度の視線に縮こまる、大輝は図体だけでかいくせにテツヤにはどうも頭が上がらない。大きな身体をコンパクトにまとめ、テツヤの前で正座をして項垂れている大輝に、粗相をして怒られている大きな犬のイメージが浮かんで思わず笑ってしまった。

「赤司くんも笑い事じゃないですよ」
「え?」

笑っていたら、矛先がこちらに向いた。テツヤがジト目で僕を睨む。怒ってるのも可愛いなあ、なんて思っていたらどうやら口に出てしまっていたらしい、テツヤはますます冷ややかな表情で僕を見やった。

「…こんなときにからかうのはやめてください」
「いや、本心なんだけどね」
「…っ!もう、大体赤司くんは危機感がなさ過ぎます!!」

さっきまでのつれない表情はどこへやら、ぶわわわっと頬を赤く染めたテツヤが飛びついてくる。なんやかやと文句をいいつつもさっきの言葉が嬉しかったらしい。抱きつぶされそうなほどの勢いでぎゅいぎゅいくっ付かれた。

「黒ちんずるーい!俺も俺も!!」
「あっ、じゃあ俺もー!!」

便乗してくっ付いてきた黄色と紫を支えきれずに、四人揃って床に倒れこむ。ごちんっと大げさな音を立てて床にぶつかった頭が痛い。思わずきゅっと顔をしかめたら、いかにも痛そうな音にぎょっとしたらしい三人が揃いも揃って泣きそうな顔をして覗き込んでくるものだから、なんだか可笑しくなって笑ってしまった。

「もー!赤ちん何で笑うの!心配してるのにー!!」
「本当ッスよ!すげー音したし!」
「赤司くん大丈夫ですか?頭割れてないですか?」
「いやまず僕の頭はそんなに柔じゃないんだが…」
「何を言ってるんですか、人間なんてどこもかしこも脆い生き物ですよ」
「それはお前たちと比べたらの話だろう…」

前から思っていたことだが、テツヤはまず基準からしておかしい。僕について考えるのなら、基準は人間に合わせるべきだろうといつも言っているのに。

「はあ…」
「…?赤ちん、疲れた??」
「ん?ああ、ちょっと疲れたかもしれない」
「じゃあ寝る?俺、赤ちんのためにとっておきの夢見せたげるよー」
「…それは淫夢の類じゃないだろうな」
「んー?どうかなー」
「…遠慮しておく」

ちぇー、っと口を尖らせる敦はとてもとても、それはもう目に入れても痛くないくらいに可愛らしいのだけど、一度許可したら夢の中で散々弄ばれて吸い取られて、一日中身体が動かないくらいに蕩かされたことがあるので絶対に絆されてはいけない。ちなみに眠っている間も断片的に喘いでいたらしく、起き抜けに「超エロかったぜー!」と大輝におよそ邪気のない笑顔で言われたときには死にたくなった。どうせ阻止されて死ねないけれど。

「じゃあおやすみ」
「おやすみなさい赤司くん」
「赤ちんおやすー」
「おやすみなさいッス」
「…おやすみ」

大輝の拗ねたような声は聞かなかったことにしよう。これでも一応まだ怒っているからね。






結局一晩中正座させられたらしく、朝起きたらリビングで両足の痺れに悶絶する大輝と鉢合わせたのだが、それはまた別の話。熟睡しすぎて昨夜の騒動に気づかず、仲間はずれにされたとこっそりいじける真太郎をテツヤと二人がかりでなぐさめたのも、また別の話。






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