【忘却の物語主人公】


「今日はサンタクロースに会える日!」

クリスマス。大人になった人間からしたらある人は苦い思い出、ある人は嬉しい思い出、色々思う事がある行事ではなかろうか。
だが純真無垢な子供、特に調査兵団の大人達と図鑑だけが知識の吸収源になっているレイにとって今日は特別な日だった。だってサンタクロースに会えるのだから。
大人だらけの調査兵団には無縁だったが親バカ全開のエルヴィンはニコニコと返した。

「もうそんな時期か」
「頼むプレゼントは決まったかい?」
「色えんぴつ」
「いいねぇ!レイはいつもいい子にしてるから必ず届けてくれるよ」
「ほんと?」
「私が保証する!」

あとね、サンタクロースさんに手紙書いたら受け取ってもらえるかな?もちろん!じゃあ手伝ってもらってもいい?よっしゃハンジさんに任せておきなさい!

テーブルに羊皮紙とペンを用意して何を書くか2人で話し合っている姿は仲のいい姉妹の様だ。エルヴィンとミケもその微笑ましい光景を優しげな表情で見つめている。

「入るぞ。……何やってんだ」
「リヴァイ!今日ね、サンタクロースが来るの!だから手紙書いて渡すんだよ」
「サンタだ?いるわ「リヴァイ」

いるわけがないと言おうとした所でエルヴィンの笑顔に制止される。とんでもない笑顔。クソ猛烈な笑顔。すぐに全てを察した。

「…そうか。来るといいな」
「うん!」
「レイ、クソメガネと別の部屋で書け」
「?わかった」

2人が出て行くのを確認しどっかりソファに腰掛ける。作戦会議の始まりだ。

「…で?」

プレゼントは買いに行けばいい。だが問題はサンタクロースを誰が演じるか。信じ切っているレイに現実を教えるなんて出来ない。あの楽しい気持ちのままで終えて欲しいのはこの場にいる全員が思っていることだ。
リヴァイは置かれていた図鑑を捲る。

「サンタクロース。常に笑顔で赤と白の服・赤いナイトキャップ姿で白ヒゲを生やした太りぎみの老人の男。白い大きな袋にクリスマスプレゼントを入れて肩に担いでいる…ヒゲだけならお前か」
「リヴァイは小さ過ぎる」
「黙れよデカヒゲ」
「じゃあ私が「却下だ」

絶対台無しになる。

「その前に衣装がない」
「「「…」」」
「チッ、なら寝ないと来ないで強行突破か?」
「会うのを楽しみにしてるぞ?」
「手紙を直接渡すとも、」
「「「…」」」
「…さて、どうしたものか」


*


夜の団長室、相変わらずキラキラと輝く眼差しをそのままにレイはサンタクロースへの手紙を持って団長机の椅子に座っている。
4人も布団持参でここにいた。こうなったら長期戦。子供だから睡魔には勝てない筈だ、そこを狙う。つまりただの寝るまで待つ作戦だった。

PM21:00
「今どこにいるんだろ」
「たくさんのプレゼント配る為にあちこちトナカイさんと飛び回ってるんじゃないかな?」
「大変なのにすごいなぁ」

PM22:00
「レイ、眠くないか?」
「眠くない」
「じゃあみんなでトランプしよう!」

PM23:00
「クソが!連敗だと…!?」
「やったねエルヴィン」
「さすが私の娘だ!」
「この2人やたら強い」

PM23:30
「「「「(眠い)」」」」
「早く会いたいなぁ」

PM00:00
「「「「「Zzz...」」」」」

PM???
「ん…?」
「おや、起こしてしまったかな?」

真っ暗で静かな真夜中にレイがふと目を覚ますと、団長室の窓が空いていて誰かがいる。
その人は赤と白の服、赤いナイトキャップ姿で白ヒゲを生やした太りぎみの老人の男。白い大きな袋を肩に担いでいた。

眠気が一瞬で覚める。

「え…?…サンタクロース…さん?」
「ほっほっほ、よく分かったのう」
「わぁ!本当に来てくれた…!」
「さぁ、良い子のレイにプレゼントじゃ」
「ありがとう」

袋の中から出したプレゼントを手渡されるとレイはお礼にと手紙を差し出した。嬉しそうに受け取ってくれる姿を見ればこっちも嬉しくなるのは当たり前のことで。
袋を担ぎ直し窓へ歩く姿、外にはトナカイが引いてるソリがありそれに乗り込むとウインクしてくれた。

「また…会える?」
「会えるとも、じゃが大人達には内緒じゃよ」
「うん!」
「ほっほっほ、メリークリスマス!」

大人達、振り返るとソファで各々爆睡している4人。次に窓へ振り向いた時、その姿は見ることが出来なかった。
でも開け放たれた窓とプレゼント、それが全て。



いつでも、愛するときや与えるとき、それがクリスマス。
デール・エヴァンス

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