「入口1つしかないなんて珍しい」
「中で分かれているのかも」
「お、鍵開いてる」

変わらず激安ジャージに身を包んだレイはダンボール3箱と布団セット、だけという少な過ぎる荷物で新しい家のドアを開けた。

「ごめんくdヒィィィ!!!」
「なんだこりゃ…!」

ドアの裏、傘立て、靴箱、玄関マット、壁一面、天井まで…今この場で視界に入る全てが大人気絶頂アイドル、レイ・ローゼンハイム一色で埋まっている。そして奥から半端ない大きさで聞こえてくるヲタ芸。
ごめんください、と言っても聞こえてるとは思えなかったので上がることに。靴を脱いで3人静かに進んでいけば更に大きな声。恐らくリビングだろう。廊下を進んでる途中洗面所がチラッと見えたがそこもレイ・ローゼンハイム一色だった。

ここまで来れば嫌でも分かる。

「し、失礼しまー『はい!はい!はい!はい!』

期待を裏切らないレイちゃん一色のリビングには、大型テレビを前にペンライトやハチマキで全身フル装備し、息の合ったMIXで大盛り上がりしてる4人組。勿論こちらに気付いていない。すぐ後ろにいるのに。すげぇなオイ。って知ってるよ私、私この人達知ってるよ…!

「「「…」」」
「レイちゃんサイコー!!!…ん?おや?もしかして君が新しい、」
「アッ、はじめまして。レイ・ローゼンハイムです」
「バカお前…!」
「アッ」
「なんだと?」

ユミルに背中をド突かれる。
ミカサに足を踏まれる。

「君の名前はレイ・ローゼンハイムというのか!?」
「あ、え、その…あ「レイちゃんと同姓同名とか何ソレすげぇ!」
「冴えないジャージのクセに運が良いな」
「ハッ!これは失礼、挨拶もしていないのにはしゃいでしまった。私はエルヴィン・スミス」
「よ…よろしくお願いします」

お噂はもうかねがね。
エルヴィンさん、ミケさん、リヴァイさんにハンジさん、いつもイベント来てくれてありがとうございますとはさすがに言えない。
彼等はそう、ファンクラブ『調査兵団』の中でも群を抜くファンである通称『調査兵団四天王』と呼ばれている。

「ご母堂にはいつも良くして頂いてるよ。そちらの方々はご家族?」
「そ、そうです。しょーもない姉2人です」
「「おい」」
「よろしくねレイ!あなたの部屋はそこの何も貼ってないドアが目印!」
「りょ…了解」
「歓迎会するから荷解き終わったら声掛けてね!」

私の部屋のドアだけ何も装飾されてない。一応気を使ってなんだろうか。むしろ目立ってる。むしろ申し訳なくなってくる。このドア、心底装飾したかっただろうな。頭を下げて3人でそそくさと部屋の中へ入るとリビングの爆音が全然聞こえない。ちゃんと防音になってるんだ。

ダンボールと布団セットを無造作に投げ置くとレイは天井を仰いだ。ユミルとミカサも分かってるだろうけど。敢えて言おう。

「…この短時間でハッキリした事が2つ」
「どうぞ」
「1つ、これからあの人達とルームシェアをする」
「そうだな」
「もう1つ」
「「「全くバレていない」」」

どう見たって彼等の反応は『レイちゃんと同姓同名の人間』くらいのものだった。

「そもそもバレる要素ないよな」
「レイなら大丈夫」
「エッ?フォローそれだけ?…んー…悪い人達じゃないし、ばーちゃん家にも近いし」

まぁどんな生活でもいいや、ジャージとマイ布団あるから。またこの荷物持って戻るの面倒だし。
レイは早速布団を引き始める。

「でも寂しいから毎晩2人の枕元に立つね!」
「やめろふざけんな」
「そうだ、あともう1つ」

想像以上にカオスだったなオイ。

- ナノ -