「おい」
「なんだ」
「紅茶」
「今は無理だ」
「飲むって言ったら飲む」
「暴君か」
「それは口答えと取っていいんだな」

カン、と足下で音がした。
音の正体は水が満タンに入ったバケツ。
察せない程バカではない。

「…ダージリンでいいのか?」
「あぁ」

常備かよ、とツッコまずにはいられない。
コイツはどれだけバケツが好きなんだ。
その前にすまないお前ら、少し離脱するがすぐに戻る。ミケはもうパソコンに視線を戻してカタカタしているリヴァイを一睨みし、信頼している部下達にメッセージを送ると渋々席を立って給湯室に向かった。

「人使いが荒過ぎる」

隠そうともしない溜息を吐きながらも手際良く紅茶を淹れていく。いい所でいつも紅茶が飲みてぇ、喧嘩を売られてるとしか思えない。だが下手に文句を言ったらアイツの足下にあるバケツが火を吹くから悔しいがここは堪えるしかない。耐えろ俺。

「サシャ」

メッセージ受信の表記、カップを持って社長室へ戻る男を目で追う1人の社員。何かを考え込んだような顔をすると、隣に座り美味しそうに焼きそばパンを頬張るポニーテールの社員の袖を引っ張った。

「むぉ?どうひたんれすか?」
「あの人」
「えっと、ミケさんでしたっけ?」
「あの人…たぶん」

確たる証拠はないけれど今日まであの人を観察してきた私には確信があった。

「ミケ猫分隊長だと思う」
「うぇ!?え、え?えぇぇ!?まさか、そんな!」

ミカサの発言に面食らう。

仲の良い2人は「一削ぎ行こうぜ!」と有名なあるオンラインゲームのユーザーだった。内容としては拠点からあらゆるエリアに移動しては生息している様々な形態の巨人を狩り、その素材から武器やアイテムを作り出し拠点を広げていくというもの。
そのゲームで知らない者はいないレベルで名を馳せているのが『ミケ猫分隊長』であり彼女達はその分隊長がトップを務めるコミュニティに所属しているのだった。

首を伸ばして社長室を見る。
紅茶を飲みながら話し掛ける社長と…それに嫌そうに答えてるミケさん…もとい分隊長?

「本人…なんですかね?」
「確認してみよう」

昼休みの時間帯でも大人数のアバターで溢れる拠点で、神がかった装備をしている分隊長に近付き敬礼のモーションをした。すぐに項垂れたモーションが返ってくる。手際良く2人はキーボードを叩いた。アバターの上に文字が浮かぶ。

【どうかされましたか?】
【世の中世知辛い】
【ストレス解消に後で一削ぎ行きましょう!】
【そうだな。ちょこちょこ離脱するかもしれんが】
【お気になさらないでください】

「相変わらず美味い」
「褒めてる顔に見えない」
「うるせぇよデカヒゲ」

それを打ち終えると社長室へと急いだ。しっかりノックを2回、この前うっかり3回してしまったエレンは回数がしつこいと蹴り飛ばされていた。入れの言葉を聞いて中に入る。

「どうした」
「あ、あのー…そちらの方に用がありまして、えへへ…」
「俺に?」
「ミケ猫分隊長ですか?」

その言葉にキーボードを打っていたミケの手が止まった。

「…どうしてそれを」
「先程メッセージを送りました」
「まさか『削ぎ子』に『小野芋子』か!?」
「ギャァァ!!本当だったんですね!分隊長!いつもお世話になってますゥゥッ!!」
「お会い出来て光栄です、分隊長」
「いつもお前達には感謝している」

憧れの『ミケ猫分隊長』に会えて途端嬉し泣きするサシャ。ミカサは一歩前に出るとミケに手を差し出し熱い握手を交わした。

「夜8時から古城エリアで奇行種イベントですね」
「あぁ、頼むぞ」
「「「戦い続ける限り負けはな「昼は終わりだ仕事に戻れクソ野郎共」

書類の束で頭を引っぱたかれた3人であったが、彼等の顔は清々しかった。

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