昨日はとんでもない1日だった。
気付けばハンジに拉致られ気付けば知らない会社に連れて行かれ、気付けば採用だ何だワケの分からない事をチビに言われて。
おかげでログインが有り得ないくらいに遅れてしまい多大な心配と迷惑をかけてしまった。それでも『どこまでもついていきます分隊長!』と言ってくれた俺の大切な部下達。おまえら、何て優しいんだ…涙を流したのは内緒だ。
そして翌日の今。
午前8時、昨日のログインが遅れた分睡眠時間を返上して夜通しやってきた。毎日来いだとか言っていたが断ると言った俺には関係ない。そもそもやるとすら言っていない。

「まったく、あのチビは何なんだ…」
「社長だ」
「!!?!?」
「すっぽかすとはいい度胸じゃねぇか」
「お、おおおお前…!どうやって、」
「そこは関係ねぇ、さっさと行くぞ」
「…は?何処に」
「会社」

すかさず言い返した。
行かない、やるなんて言ってない。
すかさず言い返された。
異論は認めねぇ。
話し合いだと終わらなそうなので手っ取り早く警察でも呼んでやろうかと思ったが、それは目の前で瞳孔を極限に開き、水満タンのバケツを持つチビに阻止される。い、いつの間にバケツを。

「コイツをテメェの宝物にぶっかけたらどうなると思う?」
「やめろ」
「なら出勤だな」
「嫌だ仕事なんてしない。書類だのあれこれやりたくない」
「何言ってやがる、仕事は紅茶を淹れるだけだ」
「……は?」

だいたいクソニートのテメェにこの会社の仕事任せるわけねぇだろ。お前の仕事は俺が紅茶欲しいと言った時に淹れるだけだ。それ以外は隣で好きにパソコンやってりゃいい。

「…」

それを『テメェを採用する』の一言で昨日片付けられたんだが。説明不足にも程がないか?それにしてもそんな仕事内容聞いた事がない。紅茶を淹れるだけでいい仕事…まぁ今は貯金で暮らしているが10億円の宝くじが当たったわけでもないし、いつか無くなるのは目に見えてる。親からは見事に勘当をくらってるし。
だからいつかまた、嫌々でも仕事をしなければいけない日が来るのだ。社長であるらしいチビから直々に好きにパソコンをしてていいと許可が出ているし、おまけにそれだけの仕事なのに給料まで出るとか。それならやっていいかもしれない。

「……分かった。おい開けるな」
「それとこの部屋は今限りで引き払う、荷物は…悲しい程にねぇときた」
「は?」
「今日から俺の家に住め、異論は聞かねぇ」
「なん「失礼します!ミケ・ザカリアス様でよろしいですか?」
「あぁ、荷物はこのベッドとクローゼットの中だけだ」

男と男で住むことに抵抗はないのか。
その前に人の気持ちを考えるスキルはないのか。
聞けばまたすっぽかされても腹が立つだけ、なら一緒に住んで出勤した方がわざわざ迎えに行かなくていい。というのが理由らしい。後は家でも紅茶を飲むから淹れろとのこと。チビが理由をツラツラと述べてる間にも、いつ来たお前等と聞きたくなる引越し業者がテキパキと作業を進めていく。これも社長の力というやつなのか?金に物言わせたかもしれない。恐ろしい。

そろそろ会社に行かなければならないと後は業者に全て任せることになり、俺はズルズル引き摺られひと目で高級車と分かる車に乗せられた。相棒のノートパソコンと一緒に。無駄に広い車内とやたらふかふかなシート。走っているのかも分からないくらいに静かだ。チビは社長らしくスーツをビシッと着ていてこっちはスウェットにパーカー。スーツは実家だけど勘当くらってるから取りに行けない。でも今の服装が俺の中で正装だからいい。

最終的に家でも好きにパソコンやってていいとの事だったので、それさえ出来るなら何だっていい俺は一緒に住むことを承諾した。窓の外を見れば街が流れていく。

「紅茶を淹れるだけ…」
「異論は聞かねぇつったろ」
「異論じゃない。不思議な奴と思っただけだ」
「そうか」
「名前」
「名前?」
「お前の」
「リヴァイ」
「なるほど…」
「お前は猫みてぇな名前だな」
「よく言われる」

こうして俺とリヴァイの生活が始まった。

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