知らない話、知らないお前
断言、躊躇ゼロ
ようこそここは楽園の惑星
「と、飛んでいった」「嘘が下手にも程があるだろ」
俺が好きな場所では退屈そうで、
あの星は自由なまま
君を覆う優しい銀河

▼▼▼


「エレンよ…」
「は、はい!」
「配色は青にしろと言った筈だが?」
「!すみませんで「謝る暇があるならさっさとやれ愚図野郎!!ジャン!」
「はい!」
「早急に予定表持ってこい、早急にだ」
「はいいいい!!」

ここはエルヴィン・スミスが代表取締役を勤めるおもちゃ会社SHINGEKI。
赤ちゃんから子供まで、あらゆる年代が長く楽しく使えることをモットーに日々新しい楽しみを創り出しているおもちゃ業界でトップの実績を持つ会社。けれどその中は子供達には到底見せれない程に日常茶飯事で地獄だった。

冒頭初っ端から部下を遠慮なく蹴り沈めたリヴァイ。数年前エルヴィンに引き抜かれた時から才能を遺憾無く発揮し、異例の速さで社長にまで昇進した所謂『この会社最強の男』と呼ばれる男。彼に憧れ入社する者が後を絶たなかったが、日が経つごとに1人また1人と此処を去っていき現在残った社員は多くない。毎日蹴り飛ばされようと暴言吐かれようとそれでも辞めないのは、リヴァイへの尊敬もある事ながら1番はこの仕事へのプライドがあるからだ。スライディング土下座張りにジャンが戻ってくる。

「社長!お待たせしました!」
「チッ、30秒も待たせやがって…まぁいい。ショーまで2ヶ月切った、そろそろ最終調整の段階に入れ」
「「はい!!」」

顔と言動からは想像の欠片もつかないが、子供達の笑顔のため。それを一番心に置き働いているのはリヴァイも変わらない。
そんな彼には探し続けているのになかなか見つからないモノが1つだけあった。それは結婚相手でも恋人でもなく、

『紅茶を淹れるのが上手いヤツ』である。

入社した時より大分まともに動けるようにはなってきたが、コイツ等どうしたら紅茶をこんな不味く淹れられるのか。むしろ不思議なレベル。苦い。薄い。不味い。誰1人として腕前が酷い。コーヒー?飲まねぇよ紅茶って言ってるだろうが。もういいだったら俺がやる。チッ、それだけ仕事する時間が減るんだがなクソが、高ぇ茶葉を無駄にしやがってクソが。仕事の事ならいいにしても紅茶の件はただのわがままである。

(そんな無茶な!社長!それは流石にパワハ言うなライナー!半殺しにされるぞ!)

だが考えてみろエルヴィン、仕事中や終わった後の1杯をクソ不味いモノで満たしたいと思うか?俺は心底思わねぇ。死んでも御免だ。広報に『紅茶を淹れるのが上手いヤツ募集』と載せるようハンジに頼んで…チッ、なら見つかるまで探す。こうして仕事の合間にそんなヤツを探すのがリヴァイの日課になっていた。

「やぁみんな!調子はどうだい?」
「ハンジさん、お疲れ様です」
「リヴァイいる?」
「あちらにいらっしゃいますよ」

突如ヒョッコリとリヴァイのいるフロアに現れたのは広報担当のハンジ。あちらー…あ、いたいた。プッ!何度見てもホントに悪人面だよな。面白い面白い。独りごちに笑うと首だけ廊下に仰け反らせていた。どうやら1人で此処に来たわけではないようだ。

「項垂れてどしたの」
「帰らせろ」
「ここまで来ちゃったから諦めよう!」
「(スン!)うるさい、このつらさがお前に分かるか?」
「いや全く」
「だろうな。急に押し掛けて来たと思ったら、」

起きろ着替えろ飯は後にしろパソコンいいからさっさと車に乗れだの…何なんだ朝っぱらから。俺は外に出ないとあの日誓ったんだ、それなのにお前はいつもいつも邪魔ばかり。ちなみに今猛烈に腹が減って、とりあえず来て!はい皆さんお邪魔するよ〜!

ハンジに腕を引かれ物凄く嫌そうにのそのそフロアに入ってきた1人の男。物凄く背が高い。社内で一番であろうベルトルトより僅かに高い。本当に嫌々連れて来られたみたいだ。その表情はリヴァイの目の前に立っても変わる事がなかった。怪訝感丸出しな三白眼に睨まれても。

「…クソメガネ、このデカイのは何だ」
「リヴァイの為に連れて来てあげたのさ!」
「デリヘルした覚えねぇぞ」
「そうだっけ?じゃねぇよ『紅茶を淹れるのが上手いヤツ』だよ!名前はミケ!ちなみに24時間暇だから」
「違う、24時間多忙」
「あれは現実じゃないでしょ」
「違う、この世界が仮想空間だ」
「あれこれ言っても仕方ないからとにかく紅茶!ミケ紅茶いれてきてよ!そこ給湯室だからさ!」
「は?何で俺が」
「いーから!」

しばらくの言い合いの後に面倒になったらしく、このチビは紅茶すら淹れられないのかとミケは不満タラタラに給湯室へ歩いていく。

そう、ミケはニートだ。
以前仕事をしていたようだが何故かスッパリと辞めてしまったらしい。それ以来仮想空間で築き上げた無限ソサエティで孤高のネトゲーマー『ミケ猫分隊長』としてその名を馳せているのだった。外に出るのも実に3週間ぶり。ふざけんな、そんな情報1ミリたりとも要らない。そんなクソニートが紅茶だと?冗談も大概にしろ、不味かったらあのデカブツごとテメェもこのフロアの窓から叩き出すからな。ただでさえ今は業務時間、何分テメェ等に付き合ってやったと思ってる。

「これでいいか」
「ただの紅茶、!!」

1口飲んで思った。…何だこの美味さは。
ふざけんなクソが、どうやったらこんなに美味いのが出来るんだテメェ。茶葉効果?じゃない、いつもと同じ茶葉だ。俺がやってもこんな美味さにはならない。これは飲み続けたい味だとリヴァイは心底思った。

「…」
「ど?ど?美味しいでしょ?」
「クソメガネ、どうしてもっと早く教えなかった」
「へ?」

サラサラと何か書かれた紙を渡されたのでとりあえず受け取っておく。

「テメェを採用する。明日から毎日ここに来い、休まずにだ」
「マジで!?ミケ脱ニートじゃんか!」
「知るか、そんな事より腹が減った」
「ならここから好きな物を頼め、あと異論は認めねぇからな」
「断る」
「なら家のネット回線全部ブチ切っておくから安心しろ」
「!?」

嫌がろうと関係ねぇ。
やっと、見つけた。

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