「けっこんしてる?」

いつもの様に大人しく図鑑を読んでいると思ったら。子供はいつも唐突だ。彼等にとっては最適なタイミングであっても大人からしたら唐突である。そもそも図鑑にそんな事は載っていないはずだが。

「結婚?誰が?」
「エルヴィン」
「私が?」
「うん」
「してないよ」
「ドクシンキゾク?」
「どこで覚えた」
「ハンジとナナバ」
「…」

机に突っ伏したい気分を抑えなんとか『そうか』だけ出す。なんて言葉を教えてくれたあの2人。結婚なんてまだ幼いレイは知らなくていい事だと思われるのに。しかし本当に唐突な話題だと思う。

「どうして急に」
「まえに見た」
「見た?」
「真っ白なおねえさん」

壁の向こう側に買い物行った時に見た。とレイは言う。そういえば…その時は真っ白なおねえさん見たとだけ言って、後はどんな物を買ってきたかの話題になってしまったから気にもとめなかったがそうか、察するに結婚式を見たのを今になって思い出したという事なのかもしれない。やはりそういうのが気になるのは女の子だからだろうか。

「レイ、真っ白なお姉さんは花嫁さんというんだよ」
「はなよめ?」
「そう、花嫁さんの隣に男のお兄さんはいなかったかな?」
「いた」
「その人は花婿さんといってね、花嫁さんと結婚する人なんだ」
「けっこんて?」

子供相手にどこまで話すべき…いや、別に話すこと自体は問題はないと判断してもいいだろう。しかし結婚とは…結婚とは…社会的に承認された男と女の結合なんとかかんちゃらといっても更に質問攻めに合うだけ…とするとここは噛み砕いて。

「一生…仲良くする誓いを立てること…かな」
「死ぬまで?」
「そうだよ。一生仲良く出来る人はそういないだろう?」
「いる」
「レイ?」
「結婚したい人いる」
「なんだって?」

結婚?
レイが?なんだそれは。
待て、私は何も聞いていない。そこまで好きになった人がレイにいるなんて私はこれっぽっちも聞いていないんだが。誰だ言いなさい。その前に年齢を考えろ。明らかにダメだ。まだそんな事を考える年齢じゃな「エルヴィン?」
「……いや、何でもない」

レイの声に我に返る。
気付くといつの間にかガタッ!と立ち上がっていたらしい。コホンと小さく咳をして再び座る。結婚だぞ。好きな人がいる、のとはワケが違うじゃないか。そうだワケが違う。
エルヴィン・スミスは思った以上に動揺していた。

「大丈夫?」
「あぁ…問題ない」
「よかった」
「心配ありがとう、それでレイは誰と結婚したいんだい?」

オルオ?舌を噛むクセがレイに移ったらどうしてくれる、という事で却下。
エルド?人格者ではあるが何かが足りないと思う。非常に惜しいが却下。
グンタ?エルドに並んで優秀な人間だがこちらも何かが足りないので却下。
リヴァイ?可愛いレイを馬鹿扱いする男に誰が嫁に出すか断固却下。
ミケ?信頼できるがボキャブラリーがなさ過ぎて会話にならなそうだから却下。
モブリット?家事全般出来そうだし優しさもある。悪くは…ないな。いや却下だ。
エレン?事ある毎に巨人化されたらたまったもんじゃない。死に急ぎ過ぎて却下。
1人も許可できる人間がいないじゃな「聞いてた?」

「……え?」
「いま言ったのに」
「す、すまないもう一度」
「エルヴィン」
「え?」

わたしが結婚したいひとは、エルヴィンだよ

「だめ?」

今までの動揺が一気に消し飛ぶ。
他の誰でもなく私と。
つまりこれはアレなのか?
所謂『お父さんと結婚する』という幼い子ならではの。だとしたらもう…なんだこの嬉しい気持ちは。

「まさか、そう言ってもらえて嬉しい」
「じゃあわたしも花嫁さん?」
「そうだね」
「真っ白なおねえさんすごく綺麗だった」
「レイの方が綺麗だよ」

この子もいつか花嫁に…その姿を少し想像しただけで目頭が熱くなるのは何故だろう。レイが此処に来てから私の目頭が熱くなることが増えたのは気のせいじゃない。綺麗どころか世界で一番に決まっている。決定事項だ。異論は認めない。そうして探検に行ってきますと言うレイを見送る。

「ミケ、リヴァイ」
「なんだ」
「レイを嫁にはやらないからな」
「いきなり何言ってんだテメェは」

エルヴィン・スミスの親バカは思った以上だった。

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