「どうしてお前まで」
「来たら都合悪い事でもあるのか?」
「そうじゃない」
「汚ぇな畜生…で、どれだ」
「ここの段の一番…上…」

汚ぇ汚ぇと側でうるさく連呼されるくらいなら外で待たせておくべきだったとミケは後悔していた。今更言っても聞くような人種ではないので仕方なしにエルヴィンから頼まれていた書物の行方を指差しはしたが、目的の書物はとても高い所にあった。2人の身長よりも遥かに高い所。

「…」
「…」
「あのクソ野郎」
「でも飛んだら…っ届くかも」
「おい」

届かないと分かって来させたとしか思えない。すんすん。そう結論付けるのは結構だしあながち間違ってはいないが、その前にお前は勝手にくっ付いてきた側の人間だろう。

汚ぇの次にはクソ野郎と悪態をつき始めたリヴァイを余所に、ミケは手を伸ばしながら背伸びする。ダメだ届かない。次にジャンプ。届かない。ん?前にもこんな事あった様な気がするのは俺だけか?とにかく手に入れなければ。届かなかったから帰ってきたなんて死んでも言いたくない。恥ずかし過ぎる。そんな頑張ってる時に声を掛けられたからか彼女は片頬を軽く膨らませ横を見ると、何故三白眼の顔付きが更に不機嫌な顔付きになっていた。

「なんだ」
「ハーネス外したら飛ぶんじゃねぇぞ」
「どうして」
「言う事を聞け」
「?わかった」

ハーネスを付けている時は締め付けがあるからまだいい。だが外したらどうだ、締め付ける物がなくなっちまうわけだからその状態で飛んだらどうなるかわかんねぇのかコイツは。自分の身体をもう1度鏡か何かでよく見ろと言いたい。

それよりも、何がそれよりもだバカ野郎。私の事よりアレを取らなきゃと2人して棚を見上げる。手を伸ばしても背伸びも、ジャンプもダメだという事になれば。これが一番手っ取り早いだろうとリヴァイはしゃがんだ。

「乗れ」
「肩車?」
「そうだ」
「重いから嫌だ」
「体重がどうだこうだ言ってんじゃねぇさっさとしろ」
「昨日甘い物を食べたか「ミケ」
「……わかった」

恐る恐る跨ぐとフッと地面から足が離れる感覚。落ちるなよの一言で急に視界が高くなり、さっきまであんなに苦労していたのに難なく取れた書物。取れた、ありがとうと伝えると高さは元の位置に戻る。重かった痩せろなんて言われなきゃいいが。だが立ち上がったリヴァイは何を返すでもなく、逃げ場を封じるかのように棚に手をついた。動揺するミケを見て楽しんでいる様にも見える。

「ありがとうじゃ足りねぇ」
「えっ、と…」
「何すればいいか考えてみろよ」
「…性格悪いぞ」
「悪いな、元からだ」

こうも我侭な男だったなんて。なんだか遊ばれているような気がしてならないがこれは…恋人といる時にだけ見せるリヴァイの態度と思えば少しは…いいのかもしれない。
ほんの数秒間だけのキス。

「これでいいか?」
「足りねぇ」

片手で手持ち無沙汰になってる片方のミケの手を取り指先で撫でる。恥ずかしがる視線も、戸惑ったような怒ったような視線も、綺麗な瞳が移し出す表情。その全てが愛しくて虐めたくなるのはどうしてだろうか。でもまぁ、今は。あまり遅くなってもエルヴィンなら勘づくだろうから。

「っリヴァイ、戻るぞ」
「ここですると思ったから動揺してんのか」
「し、してない」
「とにかく今までと変わらず注意しとけ」
「何に」
「分からねぇ奴だなテメェは」

もう此処に用はないと手を引いて部屋を出ていく。此処でうだうだ説明しても埒があかねぇ、だからとっととやる事終わらせて時間作れよ。そしたら何に気をつけなきゃいけないのか嫌って程、お前のこと可愛がって教えてやる。

そりゃもう、身体で。

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