「煙弾…緑か。オルオ、お前が撃て」
「了解です!」

壁外調査。
広い草原を走るリヴァイ班とエレン。
今の所は順調に進んでるように感じる…でも実際の所はどうだろう…

「報告、口頭伝達です」

走る馬たちに並ぶ様に少女が横に付けた。エレンもよく見知ったその少女の頬にはうっすらと赤い線が浮き上がっている。リヴァイはそれをチラと見るだけで何も言わなかった。
血?ここに来るまでに戦闘が…?もちろん新兵である自分が何を聞けるわけでもない。

「…右翼索敵が壊滅的打撃、索敵の一部が機能しません」

以上の伝達を左に回してください。
リヴァイがペトラへ伝達の指示を出す。右翼側…確かアルミンはそっちに…と思っていた矢先、遠くで煙弾が撃ち上がった。黒の煙弾。

「奇行種だ…!」
「兵長!背後より巨人が3体接近!」
「チッ、今回はついてねぇな」

足音という名の爆音を鳴り響かせこちらに向かってくる。四つん這いに走る巨人と二足歩行で走る巨人2体。そのうちの1体が地面を蹴り上げ飛び掛ってきた。

「避けろ!!」

巨人の着地により列が分断される。1体はリヴァイ、オルオ、エルド、グンタの方へ。もう2体はエレンとミケの方へ。砂埃が辺りに舞う中で視界が開ける頃には2人の姿を見る事は出来なかった。馬を走らせながら煙弾を撃つ。

「おい死んでねぇだろうなアイツ等…!!」
「兵長!今からでも」
「いや、俺達はこのまま本部を目指す」
「しかし…っ!」
「……1人はクソ程にも使えねぇが、もう1人はお前らも知ってるだろ」

だから、死ぬなよ。
絶対に死ぬな。


*


「クソッ、しつこく追い掛けてきやがって!」

巨人2体に追われる先に見えたのは市街の跡地。建物が入り組んでる…あそこならコイツ等を連れ込んでエレンを逃げさせる事が出来るかもしれない。迷ってる暇はないな…ミケは片手で立体機動の確認をし始めた。段々と市街が近付く。
右足2回、左足1回。
ようやく入口を走り抜けた所で巨人2体が互いにぶつかり合い怯んだ。今だ。いや、違う、においがする。どこ?後ろ…違う、前方から…?

「左に曲がって!」
「え…!?」
「早く!!」

2人が左に曲がるのと同時に、正面から巨人が建物を破壊しながら飛び出してくる。その瞬間にミケは馬の背中に飛び乗り巨人の項へとアンカーを発射させた。いける、今なら直接狙える。エレンが気付いた時にはもう巨人が項を削がれ倒れていた。

「速い…!」
「エレン!!」

さっきの内の1体か。
倒した巨人に目もくれずエレン目掛けて走る巨人の後を立体機動で追い掛ける。タイミングを見計らってアンカーを発射し足首を斬り付ければバランスを崩して倒れた。
それにしてもなんだ…?さっきから辺り一面巨人のにおいしかしない。手足を削いでから、なんて悠長なことはしてられないみたいだ。一気に項を削ぐとミケはエレンの隣に降り立った。刀身を捨てて予備と交換する。2体、3体、いやもっといる…まだ来る。
せめてエレンだけでも。
必ず食い止めてやる。

「このまま行って」
「な、何言ってんだ…!」
「私はここに残る」
「残して行けるわけねぇだろ!」
「いいから!」
「お前…」
「新兵は、」

生きて帰って1人前だよ。
それだけを言い残してミケは消えていった。折れた刀身だけを残して。


*


「滅茶苦茶になってやがる…」

いても立ってもいられなくなって戻ってきてしまった。
瓦礫だらけの崩壊した旧市街。
風に揺られて砂煙があちらこちらで舞い上がり噎せ返る。誰もいない。巨人もいない。馬の足音だけが大きく響く。だがその足はすぐに止まった。

「…ミ、ケ…?」

瓦礫の中に倒れている少女。
立体機動は身体から外れブレードは折れている。ジャケットは所々切れ無数の擦り傷と切り傷で白い肌が赤く染まっていた。
エレンは馬から降り駆け寄ると少女の身体を起こし何度も身体を揺する。

「おいミケ…おい、返事しろって…なぁ!!」

細い身体が揺れるだけで返事が一向に返ってこない。嘘だろ…?なぁ起きろよ。ふざけんな大丈夫って言ったじゃねぇか。どこが大丈夫なんだよ、お前の帰り待ってるヤツがたくさんいんだよ、いいから寝てないで。
お願いだから。

「…や…る…」

ドクンと心臓が跳ねた。

「駆逐…してやる…!」

あぁそうだ、一匹残らず。

「殺す!!!!」

遠くでもはっきりと見える稲光と咆哮。

「あれは…!」
「エレンか!?」

本部がざわつきだす。
エルヴィンがリヴァイの方を向いた時、既に彼はいなかった。

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