レイは眠れず静まり返った部屋で目を覚ました。
すぐ隣で寝ているエルヴィン。
人差し指で彼の前髪に触れてみる。
とてもきれいな色。
ぷにぷにと頬をつついてみる。
大人なのにやわらかい。
レイはエルヴィンを起こさないようにそっとベッドから降りると窓際に歩み寄った。
閉じた窓、そのガラスにレイが映る。
「…」
黒から赤に目の色が変わり、赤から青、青から黄、黄から桃、桃から紫。
そしてまた黒へと戻る。
この時レイが意識してやった事なのかは分からない。
頭の中がグルグルする。
エルヴィンが言ってた、全てを思い出したい?って。わたしは何かを忘れてるからそんな風に言ったのかな?
「ねぇレイ」
ガラスに映る自分とそっくりな子に問い掛ける。あなたが言ったルイザって誰?あなたは何かを知ってるの?あなたはみんなと違う何かを使えるの?あなたは何処から来たの?ずっと前から此処にいたの?
窓ガラスに映るのが自分とは何だか思えなくて、レイはそれでも自分と分かっていながらも不思議な違和感を感じていた。たまに、ほんのたまにチラつく誰かの面影。エルヴィン達じゃなくて知らない人達。これもあなたの記憶?
「ローゼンハイムって?」
図鑑に載ってない名前。みんなに聞けば教えてもらえるかな?
ねぇレイには家族がいる?わたしにはいるよ。調査兵団のみんなが家族なんだ。強くて優しくてとってもかっこいいんだよ。
月明かりが黒髪を照らす。
レイは何も知らない。
自身が人体錬成で生き返った事も、ローゼンハイムの王女であったことも。
しばらくしてひとりで話す事に若しくは考える事に飽きたのか、律儀にガラスへ一礼するとレイは再びベッドの中へと潜り込んだ。
あったかい。
いつまでも起きてるのはダメだからちゃんと寝よう。あと、好き嫌いもしないようにしなきゃ宮廷魔術士になれな…あれ?またよくわかんない記憶だ。
どちらかといえばレイは寝付きがいい方なので、横になってるだけでも知らずのうちに眠気がやって来た。こうなったらナナバが言ってた『寝て忘れちゃえ』だね。だってどうしたらいいかわかんないんだもん。また急に思い出すかも知れないけど怖くはないからいいや。
「おやすみなさい」
となればさすが子供だ。今までのことを綺麗さっぱり忘れたかの様に明日は何をしようと考え出すのだから。明日も楽しいといいな。
安心できる温かい世界の中で眠りに落ちていく。
全てのものには名前がある。
それならわたしは、誰なんだろう。