「監視はするが世話はしねぇ」

それが条件だった。監視に世話ってまるで動物に対する言い方じゃないか。それは聞き捨てならない。いいかリヴァイ、レイは私にとって大切な…くどくど。と親父(エルヴィン)にしつこく説明されたのは放っておく。知るか、こっちも暇じゃねぇんだと一言残してリヴァイは班の部屋に連れてきた。すっかりペトラ達に懐いたレイは早速相手をしてもらってるようで機嫌が良い様子。

「エルドとグンタは?」
「2人は大切な仕事でいないの」
「そうなんだ」
「俺らが遊んでやるだけ感謝しろよクソガキ」
「うん」

最近レイが自慢気に皆に見せて回ってるモノ、それはエルヴィンから買ってもらった新しい図鑑。前の図鑑より内容は少し難しくなっている為に読み応えは十分だ。ここでもそのお披露目は健在だった。

ソファにペトラとオルオを座らせて向かいに座り2人に見える様に図鑑を開く。その表情にペトラは思わず笑ってしまった。最初に会った時とはまるで違うんだもの、レイと一緒に遊べる日が来るなんて思ってなかったから嬉しいな。よく見ると名称の横にミケ、ハンジにナナバ、そしてエルヴィンの名前が書いてある。リヴァイは書類片手に時折チラリと視線を送るだけ。

「レイ、これは?」
「いっしょに見た人」
「ほぉー」
「でものってない」
「載ってない?何が?」
「これ」

これ、と指差したのは調査兵団のエンブレム。図鑑のどこを探してもないんだとレイは言う。

「これは自由の翼」
「じゆうのつばさ?」
「調査兵団のエンブレムだ」
「えんぶれむ、ちょうさへいだん」
「そうだよ」
「エルヴィンたちの仕事」

あの大きい…名前はなんて言ったっけ?そうだ、きょじんを殺すのが仕事。エルヴィンが言ってた。みんなの自由のためにみんなで戦ってるんだって。戦うって大変?って聞いたら大変だけどそれが使命だからって。しめい?分からないけどエルヴィンなら絶対できるよって言った。だって一番強くてやさしいから。

「みんな戦ってるの?」
「まぁな」
「わたしも戦う」
「レイ?」
「みんなと一緒がいい」
「その必要は無い」

仕事してると思ったら急に即答で返してきたリヴァイにレイは怪訝そうな顔で返す。だがペトラ達には何故ダメなのか分かっていた。これはそう、リヴァイなりの優しさでもある。

「お前はそのままでいい」
「なんで?」
「なんでもだ」
「?」
「だーっもう!分かんねぇヤツだな!」
「??」

ペトラは小さな手を取りぎゅっと握った。

「へきがいちょうさ」
「それは私達の仕事」
「でも、」
「レイの仕事は元気な姿をみんなに毎日見せること」
「ほんと?」
「ほんとだよ。あなたがいつまでも元気で生きてくれることがね?私達は嬉しいの」

どこか無機質としていた調査兵団はこの小さな少女が来た事で変わった。レイが何かを言うと何故かあたたかくなる。いつもなら気にもとめない一言一言が。時にトラブルを起こしたりして怒られたりもするけれどレイは調査兵団にとってかけがえのない存在になっているのは確かだった。


「そのリボンは?」
「リヴァイたちがくれた」
「エンブレムの色か」
「みんなとおそろい」

左手首に藍色、右手首に白の細いリボンが巻かれている。

「いつまでも元気に生きてって」
「言われたのかい?」
「うん。みんなとずっといっしょ」
「あぁ、一緒だ」

この世界は…いや何でもない。
ごめんね、嘘を付いて。

- ナノ -