「ここ懐かしいよな、ひたすらお前らがシャボン玉して帰り遅くなって」
「おばさんに怒られたね、エレンが」

仕事が早く片付いたから一緒に帰らないか?
エレンは門の所まで迎えに来てくれた。他愛もない話は自然と今何処を歩いているのかを忘れさせてくれる。この公園、いつもエレンが私達と飽きずに遊んでくれた場所。学園からは少し距離があるのにあっという間に着いてしまった。階段を降りて中央広場へと歩く。大きな噴水。夏場はこの中に入って遊んだりもしたっけ。びしょ濡れになってさ。

「私をそんな目で見る様になったのはいつから?」

2人が立ち止まった時、噴水が大きく噴き出す。柔らかな飛沫が互いの頬に当たった。

「…なぁ…嘘だよな…?」
「さっきからこの辺には全く人がいないから、誘い出せて良かったね」
「嘘って言えよ…!」
「互いに嘘付くのは下手でしょ?」
「お前…」
「構えろ、だが指示するまで撃つな」

出来ない。仕事だとか覚悟とか関係ない。出来ない。ホルスターに掛けた手が震える。出来ねぇよ出来るわけがない。どんなに憎まれ口叩かれようと無愛想な態度取られようと、妹を自分の手で殺すなんて俺には出来ない。

なら代わりにと言わんばかりに無数のレーザーサイトがアニの身体一面に当たった。特に表情を変えることはない。今度は最初から狙撃兵連れてきたんだ。彼女の命は今リヴァイが握っている。

「ま、待ってください兵長!!」
「この期に及んでまだコイツがイーターじゃねぇとか言う気か?」
「もういいよエレン」
「アニ…!」

昔両親を喰い殺したのは私。紫のミサンガを落としたのも私。私はイーター。調査兵団はイーターを殺すのが目的なんでしょ?だったら早く殺さないと。その瞳には覚悟が映っていた。よくねぇよおかしいだろ。何でお前だけ覚悟出来てんだ!殺されるんだぞ…!?なぁアニ、お前がイーターだとしたら何でだよ。

「だったらなんで!」
「?」
「なんで今まで俺達のこと殺さなかったんだ…!」
「それは、」
「待ってください!!」
「!クリスタ…」

最愛の妹の声にアニの瞳が震えた。
規制線が張られた向こうに。妹はここに来る前に全てを聞いていた。それでも怯えることなく来てくれたのだ。近付こうとして兵士に取り押さえらる姿を見てアニの瞳が赤くなる。

「私の妹に触るな!!!」
「今、テメェは何を思ってる」
「……何を…!何を思ってるかなんてあんたに分かるわけない…!ただね…人間みたいに生きたかったよ」

目の前にいるエレンへと蹴り掛かった。
みんな、ごめん。
本当に、そうだったらな。
私が人間だったら、


「アニ!!!!」


鳴り響く銃声と共にアニが後ろへと倒れる。
僅かながらに頬を切られたエレンは構うことなく倒れた身体を起こし、クリスタも走り寄り姉の手を握った。制服がジワリと赤く染まっていく。3人に近付く兵士をリヴァイが片手で制した。あれだけの数で狙われたらそりゃね、避けることも出来ないって。

「アニ…!アニ!」
「…ごめん、クリスタ…本当にごめん…」
「いいのもういいの!だから死なないで…っ!」
「エレンも…」
「全部許すから!なぁアニ!だからちゃんと目開けろって!」
「私さ…」
「うん、うん…聞いてるよ…っ!?」
「…クリスタとエレンと…もっと一緒にいたかった…」

3人で美味しいモノ食べて色んな所行ってさ、3人でもっと色んなことしたかった。
エレン、クリスタのこと頼むよ。
泣かせないって誓ったのにな。
あぁ結局、妹を泣かせたのはどんな時でも私だった。

「…寝たような、顔してる…」
「アニが…私のお姉ちゃんで本当に良かった…っ!もうね、何も…嘘つかなくていいからね…?」

もう、安心していいよ。
泣き崩れる妹と、息絶えた妹を両腕に抱き締めるエレン。

「…兵長、…俺が本部まで連れて行っても…」
「好きにしろ」
「…ありがとうこざいます」
「…私達の家に帰ろうねアニ…っ」

毎回毎回服こんなに濡らしやがって!
おばさんがいいって言ってたよ
だって噴水楽しいんだもん!
っあーもう!夕飯出来てるって連絡来たから帰ろうぜ
わかった
ご飯食べたらみんなで花火しよ!
うん、エレンは?
ガキ2人だけでさせれるわけねぇだろ
じゃあ3人で出来るね

最愛の妹よ、どうか安らかに。

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