小さな足音さえも聞き逃さなかった。
振り返ると帝国民なら誰でも知ってる調査兵団の兵服。あぁ、聞いた通りこの人が。

「喰い殺してそんなに楽しいかよ、バケモノ」
『喰い殺してるのがたまたま人間なだけだよ』

多数の捜査官達の死体の真ん中に立っている黒の外套と小面の面を身に付けたイーターが降参するかの様に両手を広げて話し掛けた。その声は変声機を使っているのかノイズがかった低い声の為に性別などは特定出来ない。リヴァイは狙いを定めたまま一歩近付く。

数体のイーターが出現したとの情報が入り、リヴァイ班はまとめて始末する為に別れたのだがコイツと遭遇したのが自分で良かった。エレンのクソガキだったらとっくに殺されてただろう。やがて相手は広げていた両手を下ろした。リヴァイはそれを見て耳元に手を当てる。

『大抵は狙撃兵配置するのに1人で勇敢だね、リヴァイ特等捜査官』

瞬足でこちらとの距離を詰めてきた。あと数歩、3…2…牽制として足に当たるか当たらないかの位置に1発撃ち込むと、銃声にすぐさま反応したイーターは宙返りで距離を再び取る。
だが間髪入れずに今度は正面からではなく壁伝いに走り出すとリヴァイの撃ち込む銃弾が追いかける。そして壁から飛び移り地面に着地し顔面目掛けて素早い蹴りを繰り出してきたが、リヴァイはそれを受け流した。

『へぇ、受け流された』
「俺の上司がバケモノ並に強かったんでな」
『でも頬切れたよ』
「これくらい何もねぇよ」

さすが特等捜査官、雑魚とは全然違う。すると肩の上で背拳を捻って構え、内側に弧を描くようにしながらリヴァイのこめかみへと攻撃する。が、一瞬の隙を突かれ後ろへと吹っ飛んだ。仰向けに倒れ撃たれた腹からドクドクと血が溢れ出す。ここまで流れた時間は僅か数十秒の世界である。

『内手刀打ち失敗。そんな日もあるか』

ポッカリと空いた穴は瞬く間に再生していきこれ以上の戦いは不毛と判断したのか、仰向けから跳ね起きると背を向け走り出した。ガラス張りの窓に突っ込み大きな割れる音を残しながらイーターはそのまま下へと落ちていった。

「今から戻る」

割れた窓から下を見る。誰もいない。恐らく追ったところでこの暗闇の中見つける事は不可能だろう。だが彼はイーターが倒れた場所からソレを拾うとこの場を後にした。


*


「遭遇したのはSDSだが増援に気付いて逃げた。が、手掛かりがある。ヤツが落としたモノだ」

班の部屋に戻ると部下達は全員揃っていた。ジャケットを脱ぎホルスターを外して銃を手に取る。エレンはペトラに包帯を巻かれており聞けば軽い切り傷らしく大事には至らないらしい。油断しやがったな、まぁ死なれるよりマシだが。リヴァイは頃合いを見て部下達を呼ぶと目の前にそれを置いた。

「…え…?なんで、コレ…嘘、ですよ、兵長…それ…嘘だ、そんな筈ねぇよ…!」

紫のミサンガ。

「違う!どっかで、そう…たまたま落ちてただけですよね!?」
「エレン…?」
「誰かが仕組んだとしか思えません!だから嘘だって…それは、アイツのなんかじゃない…」

違う違う。違う違う違う違う違う違う!

「それはアニのなんかじゃない!!!」


ほら、紫。
ありがとう!
それにしても渋い色選んだな
誕生色が紫なの、だから
エレンて意外とこういうの上手なんだ
またお前は腹立つことを…!
嘘だよ、ありがとう
ったく…どういたしまして
…なんとなく付けるの勿体ないなぁ
は?付けないと意味ないんじゃないの?
ふふっ、だよね。私は鞄に付けよっと
手首じゃないんだ、まぁいいけど


「アニ…テメェの妹か」
「…殺すん…ですか…?」
「どんな理由があろうとイーターは抹殺対象だ、忘れたとは言わせねぇ」
「兵長は、出来るんですか…?大切なヤツがイーターだったら殺せるんですか!?」

リヴァイはエレンの胸ぐらを掴み額に銃口を押し当てた。

「ここにいるのはその覚悟があるからじゃないのか?」
「っ…!」
「イーターは殺すがその正体が身内なら助けてやりたいだと?テメェの我侭がすんなり通る程この世の中甘くねぇんだよ」

引き金を引くとカチン。乾いた音がした。
額から離すと少し出てくると言い残し部屋から出ていくリヴァイ。

「…アニ…」

引き寄せられる様にエレンはアニのミサンガを手に取った。
あぁこんな、

こんな真実、出会いたくなかった。


【クリスタ・レオンハート】
ウォールローゼ学園高等部1年でアニの双子の妹。温和な性格で面倒見が非常に良く心優しい献身的な行動が顕著。家事全般が得意でクラスメートのサシャとは親友。アニがイーターである事は知らず唯一の肉親として大切に思っており、月に数回レイの店で彼に料理を教わっている。

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