煌びやかに飾られたパーティ会場に彼等はいた。金に縋る豚共だなんだと言えど大きな権力を持つ侯爵主催、ましてやその侯爵に調査兵団が援助を受けているとすれば出席しないわけにもいかない。高級なスーツを着たエルヴィンは早速人当たりのいい笑顔を貼り付けて手慣れた様に貴族の相手をしている。すごいな。ハンジは巨人の事を語りに語っていて『物好きの相手適当にしてれば美味しいモノ食べれるし飲めるし』だそうだ。なるほど。リヴァイは仏頂面で話をしている。俺が言えたものではないが少しくらい笑えないのかアイツは。すんすん。

噂というのは非常に厄介なモノでミケの事は何故か貴族側に知られていたらしく、彼女も是非いらしてくださいとの書状が。私の娘にしたいくらいだよ。格好を見て本気か冗談か分からない事をエルヴィンに言われた。パールピンクのドレスに身を包み化粧までしたミケは大人びた雰囲気を醸し出しながら、どこか庇護浴を掻き立てられる見た目で先程から男性陣の目を引いている。

「…は、話が…好きだな本当に…」

何人もの男と話をし終え疲れを少しでも紛らわすためにバルコニーに出れば火照った身体が夜風で冷やされていく。物好きな男達だ。女なら他にも大勢いるだろうに。如何にも高級そうなベンチに座り細い指でグラスを弄んでいると1人の男が現れた。

「楽しんでいただけてますか?」
「はい、お招き頂きありがとうございます」

すぐに疲労ではなく笑みを浮かべて対応する。叩き込まれたのだ、ナナバに。それは良かったと笑った男は当たり前のようにミケの隣に座った。

「こんなに美しい方が調査兵団にいたとは知りませんでした」
「…私は…ただの一兵士ですから」
「あなたは私の好奇心をくすぐるようだ」
「あ、あの…」

腰に手が回され男の方へと抱き寄せられる。少し身じろいだもののどうする事も出来ない。その間にもう片方の手はクイとミケの顔を上に向かせる。男の胸板に手を添えて軽く押しても状態は何も変わらなかった。そのまま首筋に顔を埋められベロリと下から上に舐められる。

「や…っ」
「身体の方はもっと可愛く鳴きそうですね」
「ガキにおっ勃てて趣味悪いな」

不機嫌と嫌悪感丸出しの声がベンチの真後ろからかってくる。男はフッと笑うとミケから離れ立ち上がった。

「これはこれはリヴァイ兵長」
「やめとけ、ロクに満足させられねぇぞ」
「なら調教するのはどうですか?」
「したいなら勝手にしろ、まぁコイツを娘の様に可愛がってる調査兵団団長直々に殺されてもいいならな」
「それは怖い、まだ死にたくないのでやめておきましょうか」

素晴らしいナイトがいるから手を出せないわけだ、楽しそうに肩を竦めた男は最後にミケの手の甲に軽く口付け中へと戻っていった。それと入れ替わりにリヴァイがミケの隣に座る。スーツも、似合うのか。いつもの兵服ではない彼の姿にミケはどぎまぎしていた。あ、ありがとう。やっとの事で出した声は少し掠れていた。

ふいにこちらを向かれて目が合う。夜風で落ち着いたはずの身体が再び熱くなるのを感じた。

「何かされたか?」
「特に、なにも」
「嘘付け」

抱き寄せられ顔を上に向かせられ、首筋をベロリと下から上に舐められる。一瞬の出来事だった。男が先程した事をリヴァイがしたのだ。ミケはしばらく瞬きを繰り返していたいたが次第に怒りが込み上げリヴァイを睨んだ。その瞳にはうっすらと涙が滲んでいる。

「これで何もされてねぇのか、無防備にも程があるぞ」
「…また…そうやって、思わせ振りか」
「何だと?」
「こういう事は、俺なんかじゃなくて…っ、」
「鈍いのもいい加減にしろ」

黙らせるようにリヴァイはミケに口付けた。
触れるだけのキス。

「…な、んで」
「好きなヤツにすればいいんだろ?だからした」
「リヴァイが、俺のこと…」
「俺はお前が好きだ」

ストンと身体の中に落ちていくその言葉。でも俺は…今は女でもいつ男に戻るか分からないから。だから気持ちに答えられない、無理だ。押し退けようとする手を握られた。男に戻ろうがお前を好きなことに変わりねぇんだよ。いつまでもそうやって閉じこもるのはやめろ。それとも何だ、今から違う女とテメェの目の前で始めてやろうか?

「…いやだ」

ポロポロと零れ落ちていく涙と共に首を横に振る。嫌だ。見たくない。そんな光景見たくない。他の女じゃなくてリヴァイの隣にいるのは、俺がいい。

「…っ俺も、リヴァイが…」
「…」
「…好き…」
「そうか」

指で涙を拭われるその感覚がくすぐったくて、思わず笑ってしまう。指を絡め繋いだままの手が温かい。

「言われた、ハンジに」
「何を」
「調査兵団に狼がいるから気を付けなって」
「…」
「知ってるか?」
「知らねぇがいるかもな」

そしてまた、触れるだけのキス。真っ白い月だけが美しい少女と黒い狼のことを優しく見ていた。

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