【女体化ミケ】


「可愛いぃぃ!」
「これは秒殺出来るね」

嫌だ。絶対に部屋から出ない。死んでも出ない。無理やり着替えさせられたミケは己の姿を見て両手のひらで顔を隠し機械の様にその言葉たちを繰り返した。
折角のハロウィンだから仮装しちゃおうよ。

「ミケが」

始まりはトラブルメーカーのハンジと悪ノリしたナナバが何処からともなく用意した、一言に露出が激しいとしか言えない衣装を持って部屋に来たのが朝。ふざけるな女のお前達が着ろ。ミケだって女じゃん。それにトリックオアトリートって言ったのにお菓子くれなかったから。俺は着ない。どう見たって派手色の娼婦にしか見えないじゃないか。その前に何処で手に入れたんだ。聞きたい?いやいい。とにかく着替えるからね!腕を掴まれ足を掴まれ身動き出来ないことにジタバタ暴れるが、同性といえど背が高い2人に抑えられてはビクともしない。

「やめろ!」
「ミーケ、こら」
「大人しくしてないと犯しちゃうよ?」
「女同士でか」
「犯すって性別関係ないからね、ミケが泣いても許してあげないけどいい?」

ナナバの目は笑っているのに笑っていない。そこまでして俺に着せたい意味が分からないんだが。でも断れば厄介な事になるのは目に見えてる。選択肢は…ないみたいだ。

「……好きにしてくれ」

と言ったのをミケは激しく後悔していた。背水の陣になるとつい投げやりになってしまう自分の性格を直ちに治さなければいけないと思う。

恐らくハロウィンを意識してるんだろう黒とオレンジ配色のボディコンワンピース。おまけに尻尾がついている。尻尾とかいらない。そして猫耳まで付けられた。いらない。胸だって、半分出てるだろ何なんだこれは。しゃがんだら下半身がどこまで見えてしまうか気が気でない。ヒールだけは何とか押し切り履かなかった。裸足万歳。言うなれば身体を隠し切れるか分からない程小さい尻尾付きのバスタオルを巻いて猫耳付けた状態だ。俺は今この瞬間変態になったのか。

「早速エルヴィンのとこ行こう!」
「嫌だ」
「団長に見せないでどーすんのさぁ」
「それともリヴァイが良かった?」
「だからどうしてリヴァイが、」
「ならリヴァイに見せよっか」
「嫌だ、エルヴィンにする」
「あー可愛い」


*


「エルヴィン入るよー?」
「あぁ、…一体どうしたんだその格好は」
「本日ハロウィン限定のミケ猫ちゃん!」
「……トリック、オア…トリート」
「飴しかないが」

とんでもない格好をしたミケの登場にも関わらず特に顔色を変えず接する我等が団長と兵長。さすがだ。おい…リヴァイもいるなんて、聞いてないぞ、最悪だ…死んだ魚の様な目で近付いてきたミケに引き出しから飴を渡すと自分の膝をポンと叩く。面白がって事の行く末を見ているハンジとナナバは分かっている。こう見えてエルヴィンは悪ノリが好きな事を。2人の向かいに座っているリヴァイはいつもと同じ表情だが何を思ってるかは分からない。

「ミケ、トリックオアトリート」
「…持ってない」
「そうか、なら私の膝の上に座る事で許してあげよう」
「何でそうなる」
「おや、躾のなってない猫だ」
「!ちょ、」

するとエルヴィンはミケを軽々抱き上げ自分と向かい合わせに座らせた。両手で腰をしっかり支えるというオマケ付きで。暴れるミケを余所に赤らめた頬から鎖骨、胸、腰、下半身のライン全てに至るまで顔色変えずに観察するエルヴィン、むっつりスケベがここにいる。暴れる姿も衣装と相まって可愛いのだがもう少し悪戯してやろうと、ミケの後頭部に手を回すとキスが出来るスレスレにまで顔を近付けさせた。腰を撫でるな顔に触るな!2人は爆笑寸前だ。

「痛いのと気持ちいいのどちらにしようか?」
「っ…ど、どっちも嫌「おい」
「ふふ、少し悪戯が過ぎたかな」

今まで黙っていたリヴァイがようやく口を開く。改めて衣装似合ってるよの言葉を伝えつつ膝からミケを降ろしたエルヴィンはとても満足気だ。ここでミケはやっと気付く。完全に遊ばれていたと。先に察することが出来なかった事が腹ただしい。片頬を膨らますと今までの恥ずかしがりが嘘だったかのように、ミケはズカズカとリヴァイの目の前に立ち睨み付けたが小さくて可愛いだけだった。

と、思いきや。
今度は自分からリヴァイの膝に向き合う様に座ったのである。ミケ・ザカリアスは怒りに身を任せると結構大胆な事も余裕でやってのける人間だった。リヴァイは眉間に皺を寄せ怪訝そうにしながらも目線はちゃっかりエルヴィンと同じルートを辿っている。むっつりスケベがここにもいた。

「なんだ」
「トリックオアトリート」
「持ってないと思ったんだろ」

諦めるんだな。行事モノには疎いと勝手に思っていたら…ちゃっかり菓子を持っていたリヴァイから受け取る。それでも悪戯してしまえばいいのだがそれは何か違う。自分にだってプライドがある。だからせめてものやり返しと握り拳で軽くリヴァイの肩を叩いた。

「…リヴァイのバカ」

すると叩き終わり膝から退くと同時にリヴァイは、うるせぇドチビと舌打ちを1つ残して団長室から颯爽と出て行った。何処に行くのかってそりゃもう、それを皮切りに3人が一斉に笑い出す。

「あははは!!やっぱりいい、最高!」
「何が」
「まだまだリヴァイも若いね!」
「若い?」
「可愛い猫さんは知らなくていい事だよ」
「?」

変で散々なハロウィンだ、ミケは心底思った。

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