【ferocious主人公】


久しぶりの休みなんでしょ?なら店でたまには2人で飲もうよ。貸切にしとくからさ。一方的な予定の取り決めながらも相手が幼馴染みなので特に悪い気はしなかったリヴァイは、それでも腹いせなのか何なのか人気店のケーキをしこたま買い占めレイから言われた通りの時間に店のドアを開けた。

「トリックオアトリ〜ト〜」

中に入ると黒いマントを羽織りカボチャの被り物をしたレイがヒラヒラと手を振っている。何してんだコイツ。束の間ポコッと頭上から落ちてきた物が見事リヴァイの頭に当たり、床を見れば真新しい黒板消し。古典的過ぎるネタにまんまと嵌められたリヴァイは悔しい通り越してもはや呆れ返る。それよかレイはイタズラ成功とケラケラ笑いながら座って座ってとカウンターを指さした。冷めた目のままカウンターに座ると幼馴染みはいつもの様におしぼりを出してくれた。丁寧に手を拭きながら思う、何してんだコイツ。

「俺はカボチャと話しに来たのか」
「今日ハロウィンじゃん」
「それは知ってる」
「似合う?」
「頼んでもねぇのに30代おっさんの仮装姿見せられるこっちの身になってみろ」
「女装の方が良かったかな」
「目が死ぬ」
「だよねぇ〜、とりあえず飲もう」

軽快なコルクが外れる音と共にレイはグラスにワインを注ぎ差し出す。リヴァイは買ってきたケーキをズイと差し出した。明らかに大きい箱。開ければ所狭しとケーキが並んでいた。ちょ、嬉しいけど、いやケーキ大好きだけどこの量どうしたの?とうとう数まで数えられなくなっちゃったの?仮装してないレイに言われるのですら腹が立つのに、ケラケラ笑うアホ面のカボチャだと数割増で腹ただしかった。首一回転するくらいにぶん殴ってやりたい。

おまけにハロウィンへの執着があるのかわざわざ外さなくていいようにストローで飲んでいる。何なんだコイツ。

「おちょくった面しやがってクソが」
「リヴァイも仮装すれば?何個か買ってあるから頭にでも付ける?」
「しねぇよ」
「まぁ30代おっさん2人が寂しく仮装なんてそれこそテロか。うん、お前はそのままでいいや。もうそのままが仮装だもんねお前」
「意味は分からねぇが殴らせろ」

そう、レイは昔からたまに同じ言語なのに通じない事が多々ある。要は馬鹿。それでも作る飯は美味いから良しとする。それからカボチャ…レイが作る料理を食べつつ酒を飲み色々な話しをした。

といっても大半は昔の孤児院で暮らしていた時の話だ。普段はリヴァイが忙しいから機会は滅多にないがこうして話す時間を設けると出てくる出てくるあんな話やこんな話。よく覚えていたなって2人で言うくらいのことまで。馬鹿でイタズラしか脳がないと思っていたレイが料理上手だったこと、潔癖症過ぎなリヴァイと一緒に掃除すると遊ぶヒマもなく夕方になってしまったこと。枕投げをしていたら早く寝なさいと怒りに来たアリソンの投げた一発が物凄く痛かったこと。時間も忘れてリヴァイとカボチャは話した。

「いやぁー懐かしいことばっかり。やっぱり女装するかな、今なら酒の勢いで行ける気がする」
「立派な凶器になるからやめろ」
「あはは!そう、何人かトリックオアトリートって来てくれてね」
「そうか」
「女の子達でしょ?あと104期生の子達も」
「チッ、クソガキ共が…たかだか1日のイベントでハメ外し過ぎだ」
「むしろたった1日なんだからそれくらい許してあげなって」

空いたグラスにワインを注ぎ若いって羨ましいよ、レイが溜息と共に零す。だってトリックオアトリートって言っても怪しまれないのに俺達の年代が言ったら完全に職質だもんね。理不尽過ぎるだろ。お菓子欲しいだけなのに。やはりレイは馬鹿だった。

「外でテメェが言わない様にこれだけ買ってきたんだ。絶対にそのまま出るな」
「え、マントと被り物してるだけなのに?」
「そうだ」

伊達に長いこと幼馴染みやってるわけじゃない。やはりその格好で外に出るつもりだったか。ならリヴァイも一緒に行けば解決にならない?解決だと?ふざけんじゃねぇ、久しぶりの休みにとばっちり喰らってたまるか。

「そこのコンビニまでは?」
「却下」
「銀行」
「この時間やってねぇよ」
「病院」
「頭ん中見てもらえ」
「調査兵団」
「牢獄にぶち込むよう言っとく」
「トリックオアトリート」
「ケーキ買ってきただろ、それ食え」
「チビ」
「ぶっ殺すぞ」

少し身を乗り出して目の前にいるカボチャを殴ればボコッ!という音と中から『ギャー!』という声が聞こえた。腹立ちが収まらないからついでにもう一発『ギャー!!』

ほんの少しだけ満足したリヴァイは『バイオレンスなのは変わらない痛い』と言いながらカボチャをさするレイに、さする所はそこじゃねぇだろとツッコミを入れつつ昔を思い出していた。同じようにハロウィンパーティをした時に確かレイは今と同じ被り物をしていた。似合う?と聞かれ全然似合ってないと殴って、ギャー!と言われて。その思い出とあの日の光景は全く一緒だった。俺もその時は仮装をしていて、

「…」
「ん?急にどうした」
「来年」
「うん」
「頭だけならしてやる」
「昔みたいに魔女の三角帽子だけ被ってくれたらいいよ」
「あぁ」
「もしかして懐かしくなったとか?」
「かもな」
「そんで街を練り歩こう」
「死んでも断る」
「ケチビ」
「ケチとチビ合わせんなあとぶっ殺す」

来年はもっと、ハロウィンが楽しくなるかもね。

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