「いただきます!」
「…レイさんの料理見る度さ、料理出来ない男もいるんだって再認識する。いただきます」
「遠回しに俺のこと言ってんじゃねぇよ!…いただきます!」
「どーぞ、召し上がれ」

兵長に連れてきてもらったレイさんの店。
男か女か最初分からなかった彼の作る料理はとにかく美味かった。兵長とレイさんは幼馴染みだそうで、確かに話し方とか雰囲気がそうだったもんな。互いに信頼し合ってるっていうか。それから何度かここに来させてもらってるうちにアニとクリスタもよく来ている事が分かった。

「そういえば3人の出会いっていつ?」
「だいぶ…前ですね」

アニとクリスタに会ったのはもう何年も前のこと。2人は小学生、俺もまだ訓練兵団に入る前で叔父夫婦の家にいた時だった。挨拶に来てくれた両親の後ろにいた小さな2人は見た目がそっくり。双子か。これは瓜二つ過ぎて見分けがつかない、

『クリスタ・レオンハートです!よろしくお願いします!』
『……アニ・レオンハート』
『俺はエレン、よろしくな』

なんて事はなかった。そっくりなのに全然似てねぇじゃねぇか。一言で表せば性格は全て真逆だった。誰にでも優しい妹と誰にでも突慳貪な姉。それでも互いに支え合っている仲の良い姉妹。それ以降学校帰りに忙しいアニ達の両親の代わりに、こっちの家で面倒見たり遊んだりしてるうちに懐かれてしまったらしく、気付けば俺は2人のお兄ちゃんという事になってた。まぁ長年一緒にいたからか今でも別に嫌な気はしなかったな。

平凡な毎日から数年経った頃、2人の両親がイーターに殺されたと聞いた時は真っ先に駆け付け、泣き叫ぶクリスタと呆然と立ち尽くすアニを抱き締めた。まさかこの2人も俺と同じ事になるなんて思ってもいなかったから。元々は自分の両親の仇を取るために調査兵団に入ったが、それに加えてコイツ等の仇を取るためでもある。訓練兵団を卒業して調査兵団に入った時に2人から貰った手紙を今でも持ってるのは内緒だ。

「そうなんだ…いいな、こんなに頼もしいお兄ちゃんがいてさ」

俺の話を聞き終えてレイさんがしみじみ感想を漏らした。いっつも困った時はエレンが助けてくれるんですよ、ニコニコと笑うクリスタの隣で仏頂面のアニが難しい顔をした。おい。

「頼もしい?」
「でしょ?」
「まぁ…頼りにならないわけじゃないけど」
「ふふ、素直じゃないんだから」
「何かあったらどんどん頼っちゃいなよ、今は世の中が世の中だからね」

女の子2人はやっぱり危ないから。俺もそうやって付き合い長いリヴァイがいるけど、いつも気を付けろ気を付けろだけでこれっぽっちも守ってくれないからねぇ。レイさんが愚痴を零す。今度はレイさんと聞けば、兵長とは孤児院で出会ったらしくその時からほぼ家族同然の存在なんだとか。それ以外は企業秘密という事で聞けなかった。レイさんにも事情はあるしな。孤児院…帝国内にはいくつかあってそういえば…歴代でも有名なアリソン・レネ特等捜査官も孤児院をしていたって話を聞いたことがある。普通は調査兵団の保護下にあるってだけで実際に経営してるのは帝国民だ。だから兵士である彼女が任務の傍ら孤児の面倒を見るのは大変だったことだろう。そんな思い出しを1人でしていると笑顔のレイさんと目が合った。

「えっ…と、どうしました?」
「妹2人がデザート食べたいみたい」
「は!?」
「でも今日はサービスってことでお代はいらないよ」
「へ?あ、ありがとうございます。ほらお前等もちゃんとお礼!」
「レイさんご馳走様です!」
「ご馳走様です。お兄ちゃんは昔から口煩いね」
「そういう時だけお兄ちゃんやめろ!」
「あはは、本当に仲良い兄妹だなぁ」


*


繁華街近くのビルの屋上。
黒い外套を羽織り鬼の面を被ったイーターはそこに腰を下ろし、四方八方に輝く夜のネオンと人々の喧騒を静かに見下ろす。この中の人間の何人が恐怖を常に抱えているのだろうか。いや、人間は馬鹿な生き物だから実際被害が自分に降り掛からない限り気にもしないだろう。所詮他人の不幸は何とやらだ。

「遅れてすみません!」
「課題か」
「そうなんです!先輩に手伝ってもらおうと頼んだら『誰がやるかバカ!』とあっさり断られて」
「だろうな」
「でもしっかりと終わらせてきたから今日は食べ放題です!気合い入れますよ!」
「無制限の食べ放題か、悪くない」
「あれ?」
「?」

突如現れた同じ黒外套に天狗の面を被ったイーターは最後の言葉に驚き、立ち上がった自分よりも遥かに高い隣に立つ鬼を見上げた。俺の言葉のどこが驚く様なことだったのか。

「どうした?」
「いや、あまり捕食しないから乗り気なのに驚いて」
「内臓派なだけだ」
「ほう!じゃあ捕食自体は嫌いではないと?」
「あぁ」

そろそろ頃合いだ。会話を中断し再び喧騒を見下ろせば選り取りみどりの獲物たち。誰が美味しそうかな。素朴な疑問なんですけどこれ共喰いって言うんですかね?天狗が尋ねる。鬼は至って落ち着いていて冷静だった。

「そもそも俺達は人間じゃないだろう?」


【怠惰 ミケ・ザカリアス】
SDSの1人、ランクSSS
優秀な調査兵団特等捜査官でありながらエルヴィンと同じランクに認定されている凶悪なイーター。捕食に対する自我のコントロールが出来る。普段の森のくまさんからは想像出来ない高度な戦闘能力とハッカー技術を持ちスパイとして調査兵団入りした。その中で得た情報をハンジと共に仲間内に流している。人肉を嫌い内臓しか食べない。イーターながらイーターを抹殺する事に関しては捕食するわけではなくあくまで仕事の為と変態ハンジと違いしっかり分別出来ている。

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