少女と少年は走る。その赤黒い血を身体に浴びながら倒すべき宿敵に向かって。汚いなんて思ったことは無い、かといって綺麗と思ったこともない。けれどこの血を浴びる度にイーターの恐怖に怯える誰かを助けられて、そしてまた分隊長の役に立てたと思えるから。

押し倒したイーターの額に刀を突き刺すと、刃が肉と肉の間を通っていくのを手から感じる。しっかりと手入れされたそのアルマは音もなく奥へ奥へと突き刺さっていった。絶叫を上げもがき苦しむイーターになんて構うものか。何が痛いだ。殺してやる。

「死ね!!」

少女は叫び刀を突き刺したまま銃を腰のホルスターから取り出し額に撃ち込んだ。衝撃にガクンと首を何度か揺らし鮮血を吹き上げながらイーターは息絶える。そう、これでいい。お前達に喰われた人達はこんなものじゃない。もっと痛い思いをしてもっと苦しんだ。だからこれくらいの辛さ受け入れて死ね。
実戦は訓練でやって来た事は通用しないと思え。ランクが低いからといって手を抜くな。その一瞬の油断をアイツ等は狙ってる。どんなヤツでも徹底的に殺れ。配属された時から分隊長に言われてきた言葉だった。

「この辺りはもういないみたいだね」
「こちらミカサとアルミン、抹殺完了しました」
『鑑識に捜査させる。俺達はこのまま落ち合うが道中ヤツ等がいたら確実に仕留めろ』
「了解」

この声からして分隊長はもうやるべき事を終えているのだろう。当たり前ではあるが敵わない。
過去の任務でミカサは自分の失態によって死ぬ一歩手前までイーターに追い詰められた事がある。その窮地を分隊長は助けてくれた。高ランクのイーター数体を1人で一切の傷を負うことなく抹殺したのだ。申し訳ありません、本部に帰ってから何度も何度も謝ったのを覚えている。情けない、何が訓練兵団主席だ。それでも分隊長は何も気にするなと、最初は生きて此処に帰ってくるだけで十分だと言ってくれた。だから私は強くならなければいけない。もう二度と足を引っ張るわけにはいかないんだ。

「来たか」

案の定ミケは既に本部から指示された対象を抹殺し終えており血まみれになったジャケットを脱いでいた。今日は一段と返り血が…もしかして怪我を?しかしミカサの心配を余所にミケはいつも通り無傷だった。すごいとしか言い様が無い。アルミンと共に敬礼をするとミカサは所々血が滲み破けた紙束を受け取りパラパラと捲る。名前と顔写真。そのまま古びたビルの中へ入るとイーターではない普通の人間の死体が積み重なった様に死んでいた。

「情報通り売人だった。リストとここの被害者を照らし合わせれば分かるだろうがほぼ間違いないだろう」
「無抵抗の人達に…」
「許せない」
「その感情を忘れるな」

ミケ班の今回の任務はイーターへ人間を提供する売人を殺す事だった。売人はミケが抹殺したし、ここに来るまでにミカサ達が殺したイーターは恐らく売人の部下だったと思われる。
任務完了。
だが心が晴れる事はなかなかにない。この辺りの恐怖は根絶やしにしたが、生身の人間を生きたまま救える事は滅多にないのだ。いつも後手。何人もの人の『助けて』を見殺しにしてきたのかと思うとやり切れない。それでも私達は全てのイーターを殺し尽くすまで戦う。助けを求めてる、恐怖にさらされている人達の為に。ミケは無線で誰かと話し終えると2人に向き合った。

「鑑識がそろそろ入る、戻るぞ」
「了解」
「分かりました」
「お前達は殺せるか?」
「え?」
「知ってる奴がイーターだったら」
「えっと…」
「聞いただけだ。帰ったら飯でも行くか」
「その前に報告書の作成があります」
「腹が減った」
「ダメです」
「腹が減っては何とやらだろう」
「ダメです」
「空腹で死ぬかもしれない」
「人間3日は飲まず食わずでも生きます」
「俺は死ぬ」
「分隊長は強い」
「そこか」


【調査兵団】
帝国内の警察業務及びイーター抹殺、研究等の治安全権を担う組織。任務の際は上位捜査官と下位捜査官が班となって行動する。5つの階級が存在しており上から特等捜査官、准特等捜査官、上等捜査官は上位捜査官、一等捜査官、二等捜査官は下位捜査官。多くの戦績を残す反面世間には公開できない秘密も数多く存在する。兵団内の情報は全て厳密に管理されているが何らかの形で手に入れるケースもあり決して完璧ではないという噂が…?

- ナノ -