「やだ…いや…!誰か助けて死にたくない死にたくない…!!!」

点々と仄暗い街灯が照らす人気のない道を走る1人の女性。息遣いは荒くその顔は恐怖に染まっていた。転びそうになりながらも後ろを振り返る、誰もいない。寂れた廃墟ビルが空を覆って黒以外に何も見えない。辺りを見回したがもう誰もいなかった。

「はっ、はぁ…はぁ…っ!」

震える手で鞄を探る。今なら、今なら連絡出来るかもしれない。助けを求めるなら今しか。コール音が長く感じる。

「出て…!早く…早く、…!」

余りの恐怖に手から落ちてしまう。それを慌てて拾い上げると向こう側から声が聞こえた。しゃがんだまま流れる涙も拭う事なく声を出す。背後の誰かに気付かぬまま。

「お願い助けて!!今イーターに「はぁーい見ぃーつっけた!!」

襲われている、助けてという言葉を繋ぐ事は出来なかった。首から千切り離され鮮血を吹き出しながら吹っ飛んだ頭は壁に当たりゴトリと落ちる。意思を無くした身体は重力に逆らうこと無くその場に崩れ落ちた。街灯が翁の面を被り黒い外套を羽織った人物を照らす。その人物は力無き手に収まっている携帯機器の画面を手馴れた手付きで操作し通話を終了させた。

「うっひょーい!人肉人肉っ♪もうちょっと派手に殺った方が良かったかな?」

振り返った先にいた吹っ飛んだ頭を蹴り飛ばす、同じく黒い外套を羽織り般若の面を被った人物に声を掛けた。足を振り上げる度にボールの如く髪が振り乱れ頭が回り地面に落ちる。その姿は腹癒せに蹴ってる様にしか見えない。

「コイツ電話してたろ、おかげでマトモに食えないっての!」
「お先に食べまーす!あ、来た来た」
「この前のニュース見たよ、色欲と怠惰と派手に殺ったんだって?」
「あぁおかげで満足出来た。さて、今日のはどうだろう」

ほどなくして現れた黒外套に人気アニメキャラの面を被った人物。2人よりも背が高く声は男性だ。般若から所々蹴られた跡が伺える頭部を素知らぬ顔で受け取ると、額の皮膚を指で掴みそのまま後頭部の方へと捲り上げるように皮膚を剥がしていった。そこから出てきた脳味噌を査定するかの様に眺める。その間翁は足の筋肉をしゃぶるように食べ、般若は面の下で笑いを隠す事無く笑っていた。

「てかその面はないでしょ!変態じゃん」
「色欲が誕生日にくれたものでね」
「変態じゃん」
「似合うと思うよ?」
「はぁ正気?変態2人にどっからツッコミ入れりゃいいかさっぱり」
「…これはダメだな、次を探す」

ゴミを捨てるかの如くポイッと頭部を投げた。

「はぁ!?」
「食べたくなる創りじゃない」
「脳味噌なんてどれも同じだろ!」
「ごちそーさま!それなりに美味しかった」

投げ捨てられた頭部を指差して般若が喰ってかかる。他の部位なら筋肉とか脂肪の付き具合で好みは変わるだろうけどさ!何が違うわけ?違うも何も脳味噌こそ創りも味も千差万別だ。悪いが私は好みにはうるさく我儘だからね。このこだわりは譲れないんだ。はぁ!?意味わかんね!ちょっと!腕と目玉は食べるから食うなよ!2人の会話を聞きながら1人捕食を楽しんだ翁は言われた通りに目玉と腕を身体から引き千切る。それを手渡すと腕は一齧りして丸投げ、目玉は口に放り込んだ。面の下からクチャクチャと音がする。

「どちらにしろ調査兵団がもうじき来るはずだから長居は出来ないさ」
「それな!」
「じゃあ次行こう」
「その前に少しいいか?」

返答を待たずに男は歩き出した2人を残して路地裏へと消えていく。ものの数分も経たずに人間の悲鳴が1回だけ聞こえ戻ってきた男の右手にはダラリと舌を出した頭部が握られていた。その被害者が調査兵団の捜査官という事なんざ彼等には関係ない。人間の時点で獲物なんだから。さぁ行こう。外套を羽織り面を被った3人は誰もいない道を再び歩き出す。別に殺らなくてもほっときゃ良かったのに。後をつけられるのは好きじゃないんだ。はいはい。

「あれ?新しいアルマあげた子だ。あらら〜残念、使う間もなく死んじゃって」
「弔う為に食べてあげれば?」
「情けで食べたりはしないよ」

私の好みに合わなければ棄てる。

「あっそ、じゃあうすらヒゲ食べていい?」
「唯一の友人なんだ、それは困るな」
「あははっ!いや先生の時と違い過ぎて涙が出る!ねぇエルヴィン?」

仄暗い街灯だけがイーターと1つの頭を照らしていた。


【強欲 エルヴィン・スミス】
SDSの1人、ランクSSS
ウォールローゼ学園高等部教師。ナイルの旧友。普段は聖人君子として多くの生徒や教師から慕われているが、数多くの人間を無惨に殺し捕食してきたイーター。その凶行に一切の躊躇いはない。好きな部位は脳味噌でそれ以外は口すら付けない、おまけに気に入らなければその脳味噌さえも食べない徹底ぶりを自己ルールとしている。仲間内からハンジに次ぐ変態というレッテルを貼られてるが本人は全く気にしていない。

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