罪悪感なんてこれっぽっちもなかった。むしろ皆もイーターで当たり前にやってることだと思ってたから。人間を食べないと生きていけない。その本能のスイッチが入った時に私の目の前にいたのが2人だったってだけ。
そうだと思っていたのに。
『お父さん…?お母さん…!?』
『クリスタ』
『アニ…アニ!!なんで、こんな…!何があったの…!?』
私は昔両親を食い殺した。
双子の妹クリスタはその日習い事があって帰りが遅かった。彼女の顔を見て、でも皆イーターなんだからという今までの考えは一瞬で吹き飛んだ。血だらけの両親を見たあの表情、あの涙、今でも覚えてる。
『…イーターが、やったの…全部』
初めて妹についた嘘。そして自分は普通ではない存在である事を思い知ると同時に、イーターからクリスタを守るのは私、もう二度と泣かせないと誓った日でもあった。

「ニ…アニ?」
「え?…なに」
「大丈夫?ぼーっとしてたから」
「大丈夫」

あの日の出来事は結果迷宮入りになった。それから高校に入るまで親戚の元に身を寄せていたけど今は2人で小さなアパートに住んでいる。たまに昔から仲の良い隣近所で兄代わりでもあるエレンが食べに来るけど。今日の夕飯はチーズハンバーグ。

「また腕上げたんじゃない?」
「ほんと!?レイさんに教わった通り作ってみたの!」
「熱心に通ってたからね」
「だってアニが一番好きな食べ物だから」

妹の様には明るく笑えないから小さく笑ってまたチーズハンバーグを一口。世界で一番美味しい料理を作るクリスタは家事全般何でもこなす。手伝うと言ってるのになかなかそれを承諾してくれないので理由を聞いたら『私がやりたい』の一点張り。何度聞いても変わらない応えが返ってきたのでそれなら必要な時は手伝うと言って私もそれ以上は聞かなかった。

学校ではクラスが違うから滅多に会わない。私はクラスメートのライナー、ベルトルト、ユミルといることが多いし、クリスタはサシャといることがほとんど。放課後は私、クリスタ、サシャ、先輩と4人でレイさんの店によく行くけど。似てるのに似てない双子だねってレイさんに言われた時には何故か先輩に爆笑された。爆笑する程?
双子だから見た目はそっくり。
そっくりなのに私はイーターで妹は人間。
妹はそれに全く気付いていない。前にイーターの起こした事件がニュースで流れた時『本当に気をつけてね』と言われたけど『私からしたらアンタの方が心配』食べられれば何でもいい低能なイーター達は見境なく襲うから。そういう意味ではイーターであっても自分を律せる側にいられた事は不幸中の幸いとしか言いようがない。クリスタを食べるだなんて私には絶対出来ない。どんなに長い間捕食が出来なくて禁断症状が出ようともだ。

「ご馳走様でした」
「ご馳走様」
「麦茶でいい?」
「あぁ」

何気なくテレビを付け手渡された麦茶を飲むと速報が流れた。目にし過ぎて慣れに慣れてしまった『捕食殺人』『イーター』という言葉が画面に浮かぶ。また殺人?商業区でだって。人があんなにいるのに?相手は人じゃないからそういうの気にしないんじゃない?そうなのかな…怖いね。ぼんやりと規制線が張られブルーシートがかけられた現場を画面越しに見つめる。キャスターが伝える内容から察するに犯人は『色欲』と『強欲』それに『怠惰』もいるはず。これは捕まらないだろうな。調査兵団もこの3人にかまけてるより雑魚のイーターを少しでも殺した方がよっぽど世の為になると思うよ。私達は雑魚と違って軽々しく尻尾出す程馬鹿じゃない。

思ったんだけど。片付け終えたクリスタが麦茶をテーブルに置いて隣に座った。どうしたの。テレビを見たまま答える。

「イーターと調査兵団どっちが強いと思う?」
「さぁね、私らが知れる世界じゃないし」
「でもアニは強いでしょ?」
「は?」
「ずっと空手やってたから!」
「人には強くても…まぁそういう事にしとこうか。…クリスタ」
「なに?」
「何でもない」

私がイーターって知ったらどうする?
両親を食い殺したのは私って知ったらどうする?大罪を犯してるのは分かってる。その時が来たら家族じゃいられなくなるし私は調査兵団に殺されるだろうから。その日が来るまではさ、ねぇクリスタ、イーターからもどんなつらい事からも私はアンタを守るからさ。それまでは側にいさせてよ。
ねぇクリスタ。
ずっとこの平凡が続けばいいのにね。


【傲慢 アニ・レオンハート】
SDSの1人、ランクS+
ウォールローゼ学園高等部1年でクリスタの双子の姉。性格は真逆。無駄な捕食はしない主義ではあるが実際の戦闘能力はランクを上回ると推定され、仲間が捕食する際に自分の手を貸すこともある。多少の捕食のコントロールは出来る。常に妹の事を第一優先に考え行動しており彼女を守る為ならば人間、イーターを殺す事も厭わない。調査兵団について詳しく知っているようだが詳細は不明。

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